0

納豆

 起きたら十一時だった。妹は、お母さんと出かけたみたいだった。
 冷蔵庫を開けた。鰹のにんにく醤油漬けがあった。ご飯にのせて、もみ海苔をかけて食べた。いい感じだった。
 テレビでベテラン芸人が、芸能界は少ないパイの奪い合い。人気芸能人のスキャンダルをリークすれば空きができる。と、コメントしていた。出かけようと思った。
 財布に九〇円しかなかった。図書館に行くことにした。
 入口近くに、春の本、と題したコーナーがあった。春告げ鳥、夜桜、桜町商店街マップ、春のアレルギー、春画の世界、梅の香、梅酢ドリンクで医者いらず。雑なチョイスだと思った。
 背中をたたかれた。振り向いた。中学のときの同級生だった。向かいの、喫茶店に誘われた。「お金ないから」と断ったら、「おごるから」と、にこにこしながら言った。
「そんなわけにいかないから。ほんとにお金ないの」
「いいの。いつもおごってもらってたから」
 喫茶店で、一時間ばかり話した。といっても、向こうの話にあいづちを打っていただけのような感じだったけど。話のほとんどは、彼氏と自分がいかにうまくいっていないかというもので、どうしたらいいかみたいなことをきかれるんだろうなあ。と思ってたらやっぱりきかれたので、「負けてあげる楽しさを覚えよう」と、コメントしたら、なんか目から鱗みたいな顔になったから調子に乗って、「折れない人は楽しい人生を送ることはできない」と、続けたら、あんま調子に乗んなよ。みたいな顔になり、「じゃ、これから彼氏とデートだから」と言ったので、「ごちになりました」と言って別れた。
 帰り、スーパーで納豆を買った。たれとからしなし、七四円税込。どうして納豆なんだろう。と思ったが、そんな心理学を包含した哲学的なテーマについて考える気力はもはやなかった。

レスを書き込む

この書き込みにレスをつけるにはログインが必要です。