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バルコニー

 バルコニーに若い女。物陰に若い男。若い女にスポット。
「おお、ロミオ。あなたはどうしてロミオなの」
「ロミオという名前が嫌なら、どうぞ恋人と呼んでください」
「ああ、ロミオ」
「ぼくはあなたのために生きたい。あなたのためならこの命、おしくはない」
「……わたしのためなら命、おしくはない……あなたがわたしに差し出せるものって、命しかないの?」
「えっ」
「なんかそういうのってさあ。努力して目標を達成するなり、新しいことに挑戦するなりしてなにがしかの取り柄を持とうって気のない怠け者がかっこうつけるための方便としかとれないんだよね。なんの取り柄もない奴の最後の砦っつーの? 女にモテる奴はみんな努力してるんだよ陰で」
「……あの、その……とにかくぼくは、あなたを愛してる」
「あんたみたいに田舎で実家暮らししてる奴に愛だの恋だの言われたって説得力ないんだよね。豊富な人生経験ありきで言うべきセリフだよなそれ。本気で女落としたかったら都会でもまれて視野広げてから来いよマジで」
「……ぼくは、ぼくは……ぼく、ぼく……」
「ん? あんた泣いてんの? 泣いてんのあんた? 泣いてんの⁉︎」
「ロミオ!」
「ママ」
「なにしてるのこんなところで。風邪ひくでしょうが」
「ママ。ぼく、東京でひとり暮らししたい」
「あら、熱あるのね。ハナたらしちゃってもー。ほら、かみなさい。……さ、帰りましょ」
「うん」
 若い男と母親去る。若い女、バルコニーの手すりにもたれて。
「あーあ。今度の奴も駄目か」

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