着物姿の女性店員。こなれた感じ。暑いが熱燗を一合頼む。蕎麦味噌をなめ、ぐいっとやる。気温に合った。ちょうどいい温度。さすが老舗。こういうところに差が出る。小松菜のおひたしも頼む。器がいい。津軽の金山焼というのだそうだ。冷や酒を追加。
辛味大根蕎麦が出てくる。いつ頼んだのだろう。記憶にない。まず大根おろしを入れずにひと口。美味い。大根おろしを入れて、豪快にすする。辛さが蕎麦の香りを引き立てる。新緑の季節にマッチした味わい。
蕎麦を食べ終え、残った大根おろしをそばつゆにすべて投入。それをつまみにして冷や酒を飲む。若いサラリーマンが一人、入ってきて隣のテーブルに。大根おろしを、冷や酒でやっつけてから蕎麦湯。デザートに、あんみつを頼む。隣に目をやる。サラリーマン。ちゅっ、ちゅっと、うつむき加減で蕎麦を吸いこむようにすすっている。
いくら味覚がしっかりしていても、食べ方がなっていないと味のわからない奴だと思われてしまう。ついでに育ちまで疑われる。職人になめられる。もったいないことだ。俺は若いころからあんな食べかたはしたことがない。
不意にサラリーマン。顔を上げ、蕎麦を咀嚼しながら、「自分の自慢や他者の批判ばかりで自分の間抜けさには気づかないのか気づいているが棚上げしているだけなのかどうかはわからないが、他者批判したら自己批判するかおのれの間抜けさをギャグにして相殺することだ。でないと自己客観化のできないただの間抜けで人生を終えることになる」と、こちらを見ずに、言った。