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沈黙

 いつものコーヒーショップに入った。清楚な感じの店員はいなかった。アイスティーとサンドを注文して、リーダーらしき女性店員の顔を眺めた。清楚ではなかったが、美しかった。多分写真に撮ったらそうでもないのだろう。フォトジェニックな美しさではない。人間は静止した像ではなく連続体として人物を認識している。写真に写っているのが本当の姿なのに写真写りが悪いという印象を持つのはそのためだ。
 ひとの容姿はしょっちゅう観察しているのに、わたしは化粧さえしていない。ファッション誌は読むが、現にいまも持っているが、洋服もあまり持っていない。ひとを不快にさせない程度の身づくろいができていればいい。人間というのは身体という牢獄にとらわれた囚人なのだ。牢獄から少しでも自由になりたかったら見た目など気にしないことだ。
 隣のテーブルで、若づくりの四十代だか老けた三十代だか世代がよくわからない女性二人が盛り上がっている。
「……でね。悩んでるの」
「悩むことないよう」
「悩むって」
「贅沢な悩みだよ」
「そっかなー。でも悩んでるの」
「んー。それで、悩みから解放されたいと」
「そうそう」
「悩みから解放される唯一の方法は、すべては自分に非があると認めること」
 沈黙。
 会話を切らせたくなかったら結論を出さないことだ。女性同士の会話は、結論を出さないゲームなのだから。会話のための会話。女性というのはそんな無間地獄を生きているのだ。
「……でね。彼が、お前やっぱりB型だなって……血液型気にするのって日本人だけなんだって。どうしてなのかなー」
「理由は様々だが、ベースにあるのは、日本にはA、B、O、ABの血液型がすべて存在しているから。北米はAとOがほとんど。南米はOしかいない」
 沈黙。
「じゃあ、そろそろ行くね」
「うん。じゃあまたね」

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