0

飯テロ 後編

「どうしてないんだ」
「人気メニューでして」
「人気メニューだったらなおさら多めに材料を仕入れておくべきだろう。君ね。わたしは水にさらししゃきっとしたレタスとクリーミーなチェダーチーズ、無添加のボローニャソーセージをはさんだ表面のかりっとしたバゲットにかぶりつくためにわざわざ朝の忙しいなか並んだんだ」
 中年男が振り返って言う。
「なあ、あんたもそうだろ。ボローニャソーセージサンドが目当てだろ。おかしいじゃないか。あんな美味いものが品切れなんて。ボローニャソーセージサンドをひとかじり、口いっぱいにひろがるレタスとチェダーチーズとボローニャソーセージの三重奏。いや、バゲットもあるから四重奏か。それをよく冷えたアイスティーで流し込む。眠気が一気に覚める。わかるだろ。あの感覚。あんたもあの感覚の虜なんだろ。そうなんだろ? な? なっ⁉︎」
 怒りで脳がオーバーヒートしているのだろう。不適当な言葉を口走っている。もちろん記憶力も低下しているはずだから、後から反省もできない。この男は普通の客ではなくテロリストだと判断したあなたはためらわず中年男のあごを蹴り上げ、ひと仕事終える。
 さて、おしゃれで気のきいたあなたがなぜ戦闘員などやっているのだろう。親も戦闘員だったから? 子ども時代にいじめられた経験から強くなりたくて?
 人間は原因があって行動しているのではない。快原則に則って行動しているのである。あなたが戦闘員をやっているのは、男のあごを蹴り上げるとすかっとするからである。

レスを書き込む

この書き込みにレスをつけるにはログインが必要です。