オト
女の子は口の中でその名前を転がしました。
でも、それは本当の名前じゃないじゃない、
と言いかけましたが、思い直しました。
なんだか聞いてはいけないことのような気がしたし、オト、という名前が気に入ったのです。
男の子は何も言いませんでした。
人の名前に興味はありません。自分のにもないのだから。
女の子も、名前を尋ねてもらえなくても構わないようでした。
その楽器は、なんなの?見たことないな。
もちろん。だって、僕が作ったものですよ。
本当に?
はい。世界でこれ一つですよ。
女の子はまじまじと男の子を見つめました。
楽器を作るだなんて思いつきもしなかったし、その楽器だけではなく、この男の子が世界でたった一つのように感じました。
もちろん全ての人は世界でたった一つですが、彼は本当にたった一つのように感じたのです。