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ワイドショーを賑わす連続強盗殺人事件
月光が照らすは何の変哲も無い一軒家
夫婦仲は悪く夫は今別居中だ
家庭を顧みなかった彼には当然の報いか
妻の体には至る所に刺し傷があって
幼い息子が一人取り残されて
犯人の映像は監視カメラにあって
推定するに二十代後半 未だ逃走中で

こんな夜は探せばそれなりにある
だからどうした? 吹く風はいつも冷たい

誰からも愛された事の無い人は屈折して
心の大きな穴を何かで埋め合わせたくて
それを合法的にするのは思うより難しくて
誰が悪いとか誰かに勝手に決められたくなくて

涙で見上げた月が滲んだ
涙で見上げた月が滲んだ

暴力とは物理的なものだけでは無くて
むしろ鋭い言葉の方が彼を傷つけて
母親に捨てられたのだと彼は思い込んで
部屋には多数の酒瓶 臭いが充満して
彼は人前で笑顔など見せた事は無くて
心配してくれる人も少なからずいたが
そんな懇意は沈黙により尽く打ち払われて
いつしか彼の胸には狂気が潜んでいて

こんな夜は探せばそれなりにある
だからどうしても吹く風は冷たくなる

理由があれば何でも許される訳じゃないけど
衝動が形成される過程は確かにあって
その引き金は往々にして外からの刺激で
結局性格は生まれた場所で決められて

涙で見上げた月が滲んだ
涙で見上げた月が滲んだ

数日後犯人が呆気なく捕まると
誰も彼もがこの事件に興味を失くして
娘を失った遺族は人知れず泣いた
事件解決を喜ぶ世間に隠れて泣いた
母を失った少年が理解するのは数年後の話
憎しみが連鎖するのは至極当然な理
忘れてしまいそうになるが人間も動物
頭の中で思っている通りには行動できない動物

こんな夜は探せばそれなりにある
だからといって吹く風を冷たくしないでよ

怒りの対象が常に形あるものとは限らず
社会構造に殴られる事だってある
綺麗事なんかさらさら言う気は無いけれど
こんな夜はさっさと明けてほしいんだよ

涙で見上げた月が滲んだ
涙で見上げた月が滲んだ

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