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五行怪異世巡『天狗』 その⑨

(……それにしても)
手近にあった一際太く高い木に背中を預け、青葉は手の中の愛刀〈薫風〉をじっと見つめた。
(〈薫風〉。怪異から守ってくれる刀だって姉さまから聞いてはいたけど、思っていた以上に守ってくれるんだな……)
背中に衝撃と熱が伝わってくる。背後の木に天狗火が直撃したのだ。
「っ……マズい……!」
背中に少しずつ、倒れてくる大木の重みがのしかかってくる。咄嗟に前方、まさに木が倒れてくる方向に向けて駆け出してしまう。大木は重力によって速度とエネルギーを増して青葉に向け倒れ込んでくる。咄嗟のことで横に躱すこともできず、逃げ切ることもできずに青葉の身体に倒木が覆い被さった。

「やった! ようやくやったぞクソガキが! よくもこのボクをビビらせてくれたな! 生意気の代償は高くついたぞ!」
やや興奮しながら、天狗は倒木に潰されたであろう青葉の下へ、文字通り飛んでいった。
“隠れ蓑”を解除し、倒木の目の前に降り立つ。
そして、うきうきとして倒木の下を覗き込んだ。その影の中から『2対』の目が、天狗を睨み返した。