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無銘造物再誕 Act 25

「別にいいだろ」
よく分かんない邪魔者が失せたんだし、何も問題はないとナツィは服のポケットに両手を突っ込む。
「…でも、あの子どう考えても“作られたばかり”でしょ」
あのまま1人で放っておくのは、ちょっと…とかすみは不安そうな顔をする。
「なんだよ」
アイツのことが心配なのか?とナツィはかすみに尋ねる。
かすみは…だってと返す。
「何も分からなかった頃の自分を見ているみたいで、なんか、さ…」
かすみの言葉にナツィはなんとも言えない顔をする。
暫しの間2人はその場で黙り込んでいたが、やがてナツィがこう呟いた。
「…行くぞ」
「え?」
既に金髪のコドモが歩き去った方へ向かおうとしているナツィに対し、かすみはポカンとした様子で返す。
「だから行くんだよ」
アイツを追いかけに、とナツィはかすみに背を向けたまま呟く。
かすみは思わず目をぱちくりさせたが、やがてうんと頷いた。
ナツィはその返事を聞くとスタスタと歩き出した。

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無銘造物再誕 Act 24

「隠れるぞ」
不意にそう言うと、ナツィはかすみの手を引いて近くの細い横道に駆け込む。
かすみはえっと驚くが、そのままナツィに引っ張られて建物の陰に隠れた。
「おーい2人とも〜」
暫くして、金髪のコドモはナツィたちが姿を隠した横道近くの十字路へ辿り着いた。
「どこ〜?」
金髪のコドモは不思議そうに辺りを見回すが、誰も見つからない。
ナツィとかすみは建物の陰から静かに金髪のコドモの様子を伺っていた。
「…」
暫く辺りを見回して、置いてかれちゃったかな?と金髪のコドモは不意に呟く。
「ま、探せばいっか!」
金髪のコドモはそう手を叩くと、ナツィたちがいる方の隣の角を曲がっていった。
金髪のコドモが道の奥に消えていったのを確認すると、ナツィはそっと建物の陰から出た。
「…やっとどっか行ったか」
呆れたように呟くナツィに、かすみはナツィ…とこぼす。

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無銘造物再誕 Act 23

金髪のコドモがナツィとかすみに出会ってから暫く。
ナツィは先程までいた大学構内を出て、かすみと共に住宅街の中を早歩きしていた。
「ね、ねぇナツィ」
そんなに早歩きしなくても…とかすみはナツィに話しかけるが、ナツィは別にとだけこぼす。
「俺はアイツを避けたくて逃げてるだけだし」
「そ、そんなぁ」
呆れるかすみに対しナツィはなんだよと続ける。
「お前はあんな素性の知れない奴に優しくしようっていうのか」
ナツィの冷たい言葉にかすみは、別にそういうのじゃなくてと言い返す。
「ただ…なんか放っとけないなって」
かすみがそう呟くと、ナツィはそうか?と首を立ち止まる。
そうだよとかすみも足を止める。
「なんか、あのまま1人にしておけないっていうか…」
多分自分たちのこと追いかけてきてるでしょ?とかすみは後ろに目をやる。
住宅街の細い道には人気がなかったが、どこからかなーつーぃ〜という声が聞こえる。
ナツィはちっと舌打ちした。

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無銘造物再誕 Act 22

「だからね、ボク、ピスケスにここまで連れてってもらったの!」
その言葉にえ、ピスケス⁈とナツィは驚く。
金髪のコドモはどうしたのナツィ?と首を傾げた。
「あ、いやー…」
こ、こっちの話とナツィは気まずそうな顔をした。
「えー何それ〜」
「別になんでもない」
「教えて〜」
「教えるかよ!」
金髪のコドモに興味ありげに顔を覗き込まれるが、ナツィは慌ててそっぽを向いた。
「第一ピスケスがなんで出てくるんだよ⁈」
俺アイツのこと嫌いなんだけどっ!とナツィは後ろを向く。
金髪のコドモはえーそんなーと呟く。
「ピスケスって優しいんだよ〜」
「ンな訳あるかよ!」
とにかく俺はピスケスと関わりのあるお前と関わりたくないからな‼︎とナツィは吐き捨てると、そのままスタスタと歩き去った。
「あ、ちょっとナツィ…」
暫くの間ナツィと金髪のコドモの会話を見ていたかすみは呆れつつもナツィを追いかける。
「…待ってよ〜」
金髪のコドモは少しの沈黙ののちに2人を追いかけ出した。

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無銘造物再誕 Act 21

「…それで、お前の名前はなんなんだ」
ナツィが不意に尋ねたので、金髪のコドモはふぇ?と聞き返す。
ナツィはお前の名前だよと強く言う。
「俺だけ名乗らせといてお前が名乗らないのはないだろ」
だから言え、とナツィは金髪のコドモを睨んだ。
金髪のコドモは…ボク?と自分を指さす。
「ボク…まだ名前ないの」
「は⁇」
テメェとぼけてんじゃねぇぞとナツィは語気を強める。
「お前だって魔力の気配があるから人工精霊なんだろ?」
名前くらいあるはずとナツィは腰に両手を当てる。
しかし金髪のコドモはないものはないの!と言う。
「ボクのマスターがね、あとでって言うから…」
「なんだそりゃ」
ナツィは呆れ顔をする。
金髪のコドモは気にせず続ける。

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無銘造物再誕 Act 20

「ていうか、テメェ何の用だ」
俺の安眠妨害しやがってと黒髪のコドモは金髪のコドモを睨みつける。
しかし金髪のコドモはナツィの顔を見てパァァァと目を輝かせた。
「…かわいい」
「は?」
「キミ、すっごくかわいい」
「えっ」
思わぬ言葉に黒髪のコドモは困惑する。
だが金髪のコドモはホントにかわいいよ!と笑顔を見せる。
「キミ名前なんていうの⁇」
「今テメェの名前を聞いてるんだけど」
「教えて!」
「ちょっ近付くな‼︎」
自身に顔を寄せる金髪のコドモに黒髪のコドモは後ずさるが、金髪のコドモは教えて教えて〜!と飛び跳ねる。
黒髪のコドモは困ったような顔をしていたが、やがて諦めたようにうなだれた。
「…ナハツェーラー」
「?」
金髪のコドモが不思議そうな顔をしたので黒髪のコドモは俺の名前だよと続ける。
「そこのかすみからはナツィって呼ばれてる」
黒髪のコドモことナツィがジャンパースカート姿のコドモことかすみに目を向ける。
へぇと金髪のコドモはそちらの方を向いて呟いた。

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無銘造物再誕 Act 19

「…?」
黒髪のコドモは静かに金髪のコドモに目を向ける。
金髪のコドモは目をぱちくりさせたが、不意に後ろからナツィ?と言う声が聞こえたので振り向いた。
そこにはジャンパースカート姿のコドモが立っていた。
「誰?」
金髪のコドモが振り向くと、ジャンパースカート姿のコドモはえ、えと…と困惑する。
「かすみ」
困っているジャンパースカート姿のコドモを見かねた黒髪のコドモが不意にそう呟く。
金髪のコドモはパッとそちらの方を向いた。
「ソイツはかすみ」
黒髪のコドモはゆっくりと立ち上がると、金髪のコドモの方に近付く。
「俺の“連れ合い”だ」
「連れ合い?」
なぁにそれと金髪のコドモは首を傾げる。
その言葉に黒髪のコドモは別にそんなのどうでもいいだろとムスッとした顔をした。

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無銘造物再誕 Act 18

ピスケスと露夏が金髪のコドモを探し始めた頃、一方の金髪のコドモは黄色い蝶を追いかけてふらふらと大学構内を歩いていた。
先程ピスケスと露夏が話し込んでいる所の近くを飛んでいった蝶が気になった金髪のコドモは、ついついそれを追いかけ始めてしまったのだ。
幸い周囲を歩く人々が少ないお陰で金髪のコドモを気にする者はほとんどいなかったが、それでもコドモがふらふらと大学内を歩く姿は目立っていた。
「あ」
不意に蝶が建物の角の向こうに消えたので、金髪のコドモは慌てて建物の裏に回り込む。
そこでは建物の裏口の段差に座り込む黒髪のコドモがうたた寝をうっており、黄色い蝶が黒髪のコドモの傍に留まっていた。
「…」
金髪のコドモは目の前の光景に驚いたようにまばたきする。
暫しの間、金髪のコドモは黒髪のコドモを見つめていたが、不意に黒髪のコドモが目を開いた。
それと共に、傍の黄色い蝶がひらひらとどこかに飛んでいく。

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無銘造物再誕 Act 17

「あの子、なんだか面白そうだったから」
「理由になってないぞ」
「うふふふふふふ」
露夏に睨まれてもピスケスは口元を手で隠しつつ笑う。
露夏は呆れた顔をしたが、ふとあることに気付いた。
「あれ、そういやさっきの子は?」
「え?」
露夏の言葉でピスケスが後ろを見ると、先程までそこに立っていた金髪のコドモが姿を消している。
「いない…わね」
ピスケスは能天気に目をぱちくりさせるが、露夏は慌てたようにヤバくね⁇とこぼす。
「あの子、造られて間もないんだろ⁇」
この世界のこと全然分かってないから面倒ごとに巻き込まれたら…と露夏は焦る。
「随分心配性ね」
「当たり前だろ」
歳下が困ってたら助けるのが歳上の義務だからな、と露夏は腰に手を当てる。
「ほら、探しに行くぞ」
空間中に残る魔力から追跡できるんだろ、と露夏は言いながらピスケスの横を通り過ぎる。
ピスケスはそうねと呟いて露夏に続いた。

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無銘造物再誕 Act 16

「…お前名前は?」
おれは露夏って言うんだけど、と露夏は笑いかける。
金髪のコドモはえーと…と目を泳がせた。
「この子、まだ“保護者”に名前を付けてもらってないんですって」
金髪のコドモの困った様子を見かねたピスケスはそう呟く。
露夏はえ、マジ?と首を傾げた。
「この子名前ないの⁇」
露夏が聞くとそうなのよとピスケスは答える。
「はえ〜」
そういう“保護者”もいるんだなと露夏は顎に手を当てた。
「まだこの子を造った人は魔術に慣れていないから、急に人工精霊を造ることになってどうしたらいいのか分からないみたいなの」
だから急に名前を付けられなくてね、とピスケスは続ける。
「ま、魔術に慣れてないのに人工精霊を造るなんて…」
どういうことだよと露夏は呆れた顔をした。
ピスケスはふふふと微笑む。
「まぁ、ちょっとね…私がそうさせたんだけど」
「おい」
思わぬ発言に露夏は思わず突っ込む。
「お前魔術初心者に人工精霊造らせたのか」
何考えてんだよと露夏はピスケスにジト目を向ける。
ピスケスはまぁまぁいいじゃないのと続けた。

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無銘造物再誕 Act 15

「ここに寧依がいるの?」
金髪のコドモの質問に、ピスケスはそうと頷く。
「彼女はここの学生なの」
ピスケスはそう言うと、ほら行くわよと金髪のコドモの手を引っ張る。
金髪のコドモはあ、うんと頷き、ピスケスに手を引かれて門をくぐった。
門の向こうにはレンガ造りの立派な建物や5、6階建ての建物があり、金髪のコドモの目を惹きつけた。
しかしピスケスはその様子を気にも留めずどんどん進んでいく。
暫くして2人は建物と建物の間の通りのような所に出た。
「あ」
不意に前方から声が聞こえたので金髪のコドモが前を見ると、人気のない通りの真ん中を短い赤髪でキャップ帽を被ったコドモが歩いているのが目に入った。
赤髪のコドモはピスケスと金髪のコドモに気付くと笑顔で駆け寄ってきた。
「よーピスケスー」
何してんだー?と赤髪のコドモはピスケスに尋ねる。
ピスケスはあら露夏と返す。
「この子の“保護者”を探しに来たのよ」
ピスケスが金髪のコドモの方を見ると、赤髪のコドモこと露夏はへぇと頷き金髪のコドモの顔を覗き込む。

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無銘造物再誕 Act 14

金髪のコドモとピスケスが遭遇してから暫く。
翼を消したピスケスは開錠魔術を使って玄関の扉を開け、金髪のコドモを部屋の外に出した。
そしてすぐに扉の鍵を閉めるよう魔術を使うと、ツノを自らの意思で消した金髪のコドモと共にマンションの廊下を歩き出した。
ピスケスは金髪のコドモの手を引いてマンションの階段を下り、そのまま近くの駅へと向かっていく。
そして駅の券売機で切符を2枚買うと、金髪のコドモに1枚渡して2人は改札を通過した。
「ねーピスケス、寧依はどこにいるの〜?」
駅のホームで列車を待ちながら、金髪のコドモはピスケスに尋ねる。
ピスケスがもう少し先よと微笑むと、金髪のコドモはふーんと頷いた。
それからすぐに列車が来て2人はそれに乗り込み、20分ほど列車に揺られていたが終点の都会の駅に着くとピスケスは金髪のコドモの手を引いてホームに降りた。
そして広い駅の地下通路を歩き回って、やがて小さな通りに面した出入り口に出た。
「ここよ」
駅の出入り口を出て少し歩いた所で、ピスケスは立ち止まる。
金髪のコドモが顔を上げると立派な西洋風の門が立っており、その脇には“玄龍大学”と書かれた看板がかかっていた。

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無銘造物再誕 Act 13

「寧依のトコに連れてって‼︎」
ピスケスは寧依がどこにいるか知ってるんでしょ?とピスケスに近寄る。
「だからお願い!」
金髪のコドモが手を叩くと、ピスケスは…そうねぇと呟く。
「別に連れていってもいいけど…」
勝手に連れ出したら彼女が怒るかもとピスケスは頬杖をつくが、金髪のコドモはお願ーい!とピスケスの膝に手を置いた。
ピスケスは暫しの間考え込んでいたが、やがて…いいわと答えた。
「ちょっとだけよ」
「やったぁ‼︎」
金髪のコドモは嬉しそうに飛び跳ねる。
「でも私から離れないようにしなさいよ」
ピスケスがそう言うと、金髪のコドモはうん!と大きく頷いた。

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無銘造物再誕 Act 12

「ボクのマスターがどこに行ったか知らない?」
さっき出かけてっちゃって、と金髪のコドモは付け足す。
「ボク1人でお留守番してたんだけど、退屈でさ〜」
何もすることないし〜と金髪のコドモはその場に座り込む。
「どこに行ったか気になるんだぁ」
だからどこに行ったか知らない?と金髪のコドモはピスケスに目を向ける。
「あら、彼女がどこに行ったか知らないの?」
ピスケスが聞き返すと、うんと金髪のコドモは頷く。
「そうねぇ…今日は平日だから、大学にいると思うんだけど」
1限が云々ってさっき言ってたし、とピスケスは顎に手を当てる。
それを聞いて、ピスケス知ってるの⁈と金髪のコドモは顔を上げる。
「えぇ」
知り合いよとピスケスが返すと、金髪のコドモはじゃあさじゃあさ!と立ち上がる。

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無銘造物再誕 Act 11

「だぁれ?」
青髪のコドモはその質問にふふふと笑ってから答える。
「私はピスケス」
通りすがりの人工精霊よと名乗った相手に、金髪のコドモは不思議そうな顔をする。
「ぴすけす⁇」
「そうよ」
“お母様”に付けてもらったのとピスケスは続ける。
「あなたは?」
ピスケスに聞かれて、金髪のコドモはボク?と自らを指さす。
「ボクまだ名前付けてもらってないよ」
その返答にピスケスはあらと驚く。
「まだ名前を付けてもらってないの?」
「うん」
寧依があとでって言うからと金髪のコドモが言うと、そうなのとピスケスは返す。
「ヒドいものねぇ」
せっかく自分が作った人工精霊に名前を付けないなんて、とピスケスは口に手を当てた。
「…ねぇピスケス」
不意に金髪のコドモが話しかけてきたので、ピスケスは相手の方を見やる。
金髪のコドモはそのまま続けた。