落下しながらビルの外壁を蹴り、ロノミアは一気にアンテレアの結界領域内に飛び込む。同時に、メディウムに封じられた結界術の効果で自身を取り囲む半径1m程度の小さな結界を展開するのと同時に、敷地内の地面に着地した。
「さて……もう始まってっかな? あいつらの魔法が発動しちまうと、どうしようも無いからな……」
ロノミアが飛び降りた直後、ボンビクスは固有魔法を発動していた。
ボンビクスの魔法は、『糸による拘束』。肉眼で捉えられないほど細い、透明な糸を展開し、対象を拘束するものである。
本来、ボンビクスの生成する細糸はその直径故に極めて耐久性に乏しく、出力も不安定なため、実用に足るものではない。
しかし、メディウムに設定した魔法によって固有魔法を強化することで、糸自体の強度を飛躍的に増強すると同時に、その糸が『捕える』対象を概念的なものにまで拡大する。
彼女の放つ『糸』は、その特性を最大限に強化したことで、不安定さも数倍に上昇したのと引き換えに、時空すら絡め取り縛めることが可能となったのだ。
しかし、魔法効果の不安定性自体は据え置きどころか更に悪化しており、ボンビクス一人では自身の強さを発揮できないという、致命的な欠点がある。
それを補うのが、双子の妹であるアンテレア・ヤママイの固有魔法である。彼女の魔法で円形に展開される結界は、領域内において作用している魔法を強化し、更に安定させる。範囲内にさえいれば例外なく効果が適用されるため、味方以外を強化してしまうリスクもある。
しかし、ボンビクスの糸は『時空すら縛める』。領域内にボンビクスの魔法効果が存在する場合、全ての存在及び概念は、安定化しリスクの消滅した拘束糸によって自由を喪失するのだ。
ロノミアが展開した結界内は『双子の領域』から独立した空間となるため、拘束糸は安定性を失う。唯一領域内で安全に活動できるロノミアは、悠然と無警戒に校舎に近付き、魔法を発動し、手の中に全長3m超の斬馬刀を出現させた。
「キッヒッヒ……やるぞォ“破城”。犯行予告のお陰で『守り』は固めてるだろうからな。お前が役に立つはずだ」