かつての背中
俺は親父が嫌いだ。
お袋が死んでも平然としてる
親父が大嫌いだった。
俺は親父が嫌いだ。
酒好きで、寝ぼすけで、不器用な
親父が大嫌いだった。
俺は親父が嫌いだ。
頑固で、意地っ張りで、すぐに殴る
親父が大嫌いだった。
だから死んで清々すると思ってた。
でもなぜだろう。
親父の作る不味い料理が
恋しくなるのは。
お袋の代わりにと、朝まで料理の練習をしていたのを知ったからだろうか。
あのお節介の様な小言が
聞きたくなるのはなぜだろう。
夜中にお袋の遺影の前で泣いてたのを
知ったからだろうか。
俺の為にと、
朝から晩まで働いて
起きれなくなるくらい疲れて
若くもないのに体ぼろ雑巾にして
挙げ句死んじまうなんて
本当にバカな親父だよ。
死ぬまで黙ってるなんてさ。
「バカ親父が。」
流れないと思ってたものが頬を伝う。
墓の前で大好きだった酒を
遺影と酌み交わす。
涙混じりの酒を飲んだ後の景色は
見飽きたはずなのにどこよりも綺麗に見えた。
大嫌いなバカ親父よ。
ありがとう。
アンタの息子で良かった。
滲んだ目に浮かぶかつての背中は
どこまでも遠く、輝いてた気がした。