「君」を嗤った地を踏みしめて歩く
真夜中なんかよりもずっとずっと暗い心に、
橙の陽が染み込んでゆく。
軽く目眩がして、頭がぼーっとした。
脚は力が抜け、耳は空気に覆われた。
通り過ぎていく人、人、人...。
大きなビルヂング。
喧騒も、蝉時雨も、遠く隔たった向こうにある。
ぽつんと独り、駆け巡るネガの真ん中にいる。
鼻を掠める、染み込んでしまった水の匂い。
土の匂いに、広大な土の匂いに、紛れてしまった
あの水の匂い。
はっと鮮明になる意識は、すぐにその意識をかき消した。
儚い水は、脆く、美しく、そして尊い。
まるで一緒だ。
広いこの整備された地に落とされた水。
同じ整備された地に覆われた水。
過る君の笑顔。
喧騒と蝉時雨が飛び込む。
苦しくなる気管、熱い息を吐いた。
整備された地を踏みしめ歩く。
君の匂いを噛みしめ歩く
夏の終わり、夕立の後。