恋なんてするんじゃなかった 1
「一口ちょうだい!」
「あ、ちょっ…と」
「間接キスしちゃったね、クックックッ」
隣にいるちょっと不思議な笑い方をする子が楓。僕の恋人だ。
僕は彼女に1つだけ隠し事をしている。それは、僕が大学進学を機に田舎へ帰ろうとしていること。楓は東京に残るらしい。進路の話になる度に僕は話をはぐらかしてきた。卑怯な奴だ。
僕が田舎に帰ろうとしているのにはいくつか理由がある。あっちでしか学べないことがあるのも1つだが、何より都会の生活に飽きたのだ。田舎者は「なんて贅沢な悩み」だと思うかもしれない。僕も元は田舎者だ。10年前ならそう思っていたことだろう。しかし、上京してみたらどうだろう。人は自分なんかに無関心だし、時間だけが流れていく。僕にこの環境は合わなかった。それでも常に僕はそれらに一人で耐え、孤独に生きてきた。そう、高校に入るまでは。
気が向けば続けます。