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傷痍軍人さんと少年 Ⅰ

 私が小さかった頃の話をしてやろう。お前は今いくつだ?エエ、五歳?だったらお前くらいの年だよ。

 私の生まれた家のすぐ近くには川があって、川沿いを鉄道が走っていたんだ。
 いつだったか、私はお父さん……お前のひいじいちゃんと一緒に鉄道に乗った。黒くて不愛想で、お前の身長よりずっとずっと大きくて、かっこいい汽車だ。でも、修理が終わっていなかったもんで全身傷だらけの汽車だった。
 私とお父さんが乗った、一番前の車両の座席には、傷痍軍人さんが何人か座っていた。傷痍軍人ってわかるか?戦争で立派に戦って傷を負った兵隊さんたちだ。かっこいいぞ。
 私は、一人の傷痍軍人さんの前に座った。顔に大きな火傷の跡があって、右腕を吊っていた。窓際に松葉杖が立ててあって、足も悪くしているようだった。
「こんにちは」
 私は言った。私は軍人さんと話がしたかったのだ。その頃軍人さんってのは子どもたちの憧れの存在だったものだ。軍人さんになって鉄砲持って、敵を沢山やっつけるぞって、本気で思っとったのだ。そんなような人たちだったから、私はいろいろと話したかった。
「こんにちは」
 傷痍軍人さんも挨拶してくれた。
「その怪我は、戦ってきた怪我?」
「そうだね。遠い、南の方まで行ってきたさ。そこで敵の軍と当たって、このざまだ」
「かっこいい。内地を守るためにした怪我でしょ?」
私は目をキラキラさせたよ。だけどね、傷痍軍人さんは窓の外、それも、ずっとずっと遠くに目をやって苦笑いした。
「どうかな。今は……もう分からんね」
そう言ったきり、窓の外をぼうっと眺めるだけで、私に話しかけてはくれなかった。
 私は残念に思って、一緒に外を見ていた。