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少年少女色彩都市・某Edit. Agitation & Direction その⑤

タマモが怒りに任せてエベルソルを蹂躙していた頃、ロキは他のリプリゼントルがエベルソルの群れと交戦しているのには見向きもせず、脇をすり抜け戦場の目標地点に向かっていた。時折自分の下に流れてくるエベルソルの個体に難儀しながらも、ロキはようやく目当ての場所に到着した。
「ぬぼさん!」
エベルソルに取り囲まれていた、サイバーパンク風の衣装を纏ったリプリゼントルの少女に呼びかける。
「え、あ、フ、フベ……」
「ロキで良いです」
「分かった、ロキちゃん、助けて!」
「まあ、はい」
変化弾をエベルソルに叩き込み、一度ぬぼ子からエベルソルの群れを引き剥がす。
「あ、ありがとう……」
「いえまあ、別に、はい。取り敢えず攻撃継続してください、溢れた分は私が整えます」
「助かるよ」
ぬぼ子はガラスペンの先を空中に置き、素早く直線を引く。するとその直線を対角線とする長方形が、地面と平行に生成された。更にガラスペンをそのまま真上に持ち上げると、先ほどの長方形を底辺とする直方体となる。
「次の音まで……3、2……」
ぬぼ子のカウントダウンの間、ロキが弾幕でエベルソルらを牽制する。
「ゼロ!」
ぬぼ子の宣言と同時に、巨大な直方体型のブロックが群れの中央に落下する。数体のエベルソルが押し潰されたが、他の個体は素早く回避し、前進を続けようとする。
そして、ロキが予め仕込んでいた変化弾に足をすくわれ、転倒した。それを堪えた個体も、倒れたエベルソルに足を取られて連鎖的に倒れ伏す。
「……あ」
「ん? ロキちゃん何……あっ!」
ブロック、変化弾の両方を回避したエベルソルが2体、2人の両脇をすり抜けてホールに向かったのだ。

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少年少女色彩都市 act 8

鼻歌を歌いながらガラスペンを空中に走らせていた少女は、ヘドロのエベルソルが弱々しく蠢いているのに気付き、一度手を止めて接敵した。
「おかしーなぁ……3回くらい殺さなかった? ほれ、聞いてるなら頷け?」
エベルソルがのろのろと伸ばしてきた千切れた腕を踏みつけ、首の部分を捕まえて作業に戻る。
「何描いてるか、気になる? お前にとどめを刺すものだよー。どうやって死にたい? 私のお勧めは八つ裂きとかなんだけどねぇ……。こんな住宅街のど真ん中でやったら迷惑じゃない? だから、埋葬する方向でいこうと思うんだけど……どう?」
当然、エベルソルは何の反応も返さない。
「なーんーかーいーえーよー」
エベルソルの首をぐいぐいと絞めつけながら、少女は楽しそうに描き進めていく。
「……あぁー。何にも言わないから、もう完成しちゃった」
それは、直線のみで構成された巨大な手のような立体。その手が道路を舗装するアスファルトに指を食い込ませ、ぐいと引き上げる。舗装はそれにしたがって剥がれるように持ち上がり地下の様子が表に現れる。本来なら土壌とガス管や水道管に満たされているはずのそこには何も無く、ただ無限に広がっているようにすら思える虚空だけがあった。
「どう? 素敵じゃない? ……素敵じゃないか。そっかそっか。……うわっ」
その時、少年の奏でるバイオリンの音色と、肉塊エベルソルが潰れる音が少女の下にも届いた。
「うえぇ……私、クラシックって苦手なんだよねぇ。特に音の高い管楽器と音の高い弦楽器。いや好きな人は好きなんだろうけどね? 私はもうちょっと重低音な方が安心できるなぁ……あの子もチェロとか弾けばいいのに。良いじゃんゴーシュスタイル。……おっと、いつまでも放っておいて悪かったね」
手の中でぐったりとしているエベルソルの頭部に声を掛け、虚空の方へ引きずっていく。
「それじゃ、ご冥福を……いや地獄行き確定だから福は無いか。思い返せばお前は久々に私をいらいらさせた良い敵だった。うーん……ああ、そうだ」
何かを閃いたように指を鳴らし、少女はエベルソルを虚空に投げ捨て、落ちていくソレに敬礼した。
「良い来世を、我がクソッたれの敵! 次会う時は仲良くしよう!」
エベルソルが見えなくなるまで見送り、少女は巨大な手を用いて舗装を元に戻した。

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厄祓い荒正し Ep.1:でぃすがいず その①

割れた床板の下に手を突っ込んで、しばらく床下を探る。目的の感触が触れ、すぐにそれを床の上まで持ち上げた。
「……見つけた」
お目当ての品、この神社がまだズタボロ廃神社じゃ無かった頃にお神酒として奉納された、半升入りの清酒の瓶。瓶・中身共に状態良しと目視で確認し、栓を開ける。
端の欠けた猪口を2枚、床の上に並べる。1枚を目の前に、もう1枚を、まるで誰かと対面しているかのように奥に。
お神酒をそれぞれの猪口に注いでいく。奥の猪口、こちらの猪口の順番で。瓶には再び封をして、また床下に隠す。
それから、またお神酒の前に胡坐で座り、こちらの猪口を取り上げ、中身を一息に飲み干した。
日本酒特有の気持ち悪い甘味と喉を焼く感触に思わず顔を顰めたが、我慢して飲み込み、猪口を床にタン、と置き、あちらの酒器を見る。
「……やっと出てきた」
あちらの酒器を持ち上げ、中身を吞むでも無くしげしげと見つめている異形の怪物……この神社の御祭神に、溜め息を吐いた。
「良ィーい酒だァ……旨かったべや?」
「無理な味だった」
「ウッソだァー。だってこんなン、香りだけで旨ェだろーがよィ」
「ならさっさと吞んでくださいます? せっかく神様呼ぶために苦手なの我慢したんですから」
「ウイウイ」
細長く節くれだった指3本で摘んでいた酒器を口元に持っていき、神様はすい、とお神酒を飲み下した。
「ッ…………はァー……! やッぱ旨ェなァ、人間サマが神社に納める酒はよォ」
「あれが旨いぃ? 理解できない……」
この神様は、いつも人間のことを指す時に、『人間サマ』と“様”付けで呼んでいる。神様なんだから、もっと偉そうにしても良さそうなものなのに。以前それについて尋ねた時はたしか……。