表示件数
4

世にも不思議な人々㊾ 一つ目小僧その2

「つーかーまーえーたァッ!」
伏見は一つ目小僧のほぼ真上から首と右腕を、安芸は地面を這うような低い姿勢で両脚を捉えた。
「よーし捕まえた……ってあれ?何だこれ?」
しかし、彼らが捕まえたのは、一つ目小僧のものらしき右腕と両脚の膝から下、そして生首だけだった。
「うわっ、気持ち悪っ」
伏見がそう言っている間に、それらは消えてしまった。
「……お華さんや、どう思う?」
「これがあの一つ目小僧の能力なんでしょうね」
「もう一度だ。今度は声を出さないようにしなくっちゃね」
「やっぱりあれが原因でしたかね?」
再び追跡開始。今度は無事に組み伏せた。
「ぐああ、離せー」
既に人間の顔に戻ってしまった一つ目小僧が抵抗する。
「いいや、駄目だね」
「一体何が目的だ!?金なら無いぞ!」
「いや、別にそういうんじゃあ無いんだ。ただ君さ、能力者なんだろ?僕らも同類だからさ」
「え!じゃあお前達も異能力者なのか!?」
一つ目小僧を組み伏せたまま、会話が始まった。
「ああ、その通りだ」
「へえ、じゃあいつその能力に気付いたんだ?」
「いや、別に、手に入った時に自覚したんだが」
「ん?じゃあそっちの子は?」
「んー、気付くっていうのはちょっと変な言い方ですね」
「思い出した、の方が正確か?」
「いや、後天的に身に着いた能力だし」
「……は?」
一つ目小僧が倒されたまま、右手を軽く握った。その瞬間、伏見の腕と言わず、脚と言わず、頭と言わず、首と言わず、肩と言わず、腹と言わず、体中に人間の右手のようなものが取り付いた。
「うわ、何だこれ」
「お前ら一体何なんだ!?少なくとも俺の仲間でだけは無いね!」
そう言って軽く右手首を上げると、その動きに対応するように取り付いた右手が一斉に伏見の身体を引っ張り、引き剥がした。
「後天的、だぁ?何ふざけたこと言ってるんだ、能力は前世から引き継がれるもんだと相場が決まってんだぜ!」
そして一つ目小僧はまた逃げ出してしまった。

2

熱く 暑く 厚く ATSUKU

いいぜ、やってやる。
これまでの評価なんて関係ない。
スタートラインは一緒だ。
中学校で全国大会に行った?
中学校で4番だった?
中学校でエースだった?
はっ、笑わせんな。
そんなもんはすでに過去のもんだ。
自分はどうなんだって?
全国どころか県大会にも行ってねぇよ。
4番ですらねぇよ。
後輩にも舐められてたよ。
そんなヤツでもなぁ、本気出して勝ちたいって思ったら、神様はチャンスくれるんだよ。
いつもだったら無理なことでも、努力してたら神様は助けてくれるんだよ。
何が言いたいかって?


自信っていうのは、自分を信じるって書いて自信なんだ


本気出したら練習にも身が入る。自主練習も積極的にやるようになる。
そしたら、神様がくれたチャンスを自分の物にできるんだ。
自分の物にできたら、自分を信じるようになる。
そしたらまた、本気で練習できるようになる。
――――――――――――――――――――――いかがでしたでしょうか?初めて連載しようと思ったので意味が全く伝わらないところもあるかもしれませんが、そこは皆さんお好きなように解釈していただいて結構です!
ここでは、部活中に感じた事等を投下していきたいと考えております! 
「共感した!」や、
「なにいってんだこいつ」等どんなことでも良いので、レスください。それが、部活の心の支えになります。皆さん、よろしくお願いいたします!

2

ダブル ピリオド ③

「…”古い時代の名前の一文字目”はお前の名前の最後の一文字に、”新しい時代の名前の一文字目”はもはや読みがそのまま…」
「ぇえええええ⁈」
俺の左斜め前に座る彼は思わず叫んだ。
「え? は? え⁈ え、こんな奇跡の一致あるの? すごくね⁇」
「だよね」
「縁だよなもうこれは」
周りの人々は笑いながら言う。
「ホントすごいよなもうこれ。ホント笑える…」
俺はテーブルに肘をつきながら言った。
「なぁちょっと、おれたちのことネタにしてねー?」
左斜め前に座る彼は不満げに言う。
「いやこれはねぇー?」
「しゃあないしゃあない…」
「なんか嫌なんですけどー」
左斜め前に座る彼はそう言って窓の外を見る。
「…でも例え時代が変わってもオレはこうして一緒にいるつもりだかんな。2つの時代は一緒にいられないけど…」
不意に、正面に座る彼がそうぽつっと呟いた。
「…ブッ」
その呟きを聞いて、思わず左斜め前に座る彼は吹き出してしまった。
「…お、お前…なんか可愛いこと言うなぁ」
「可愛かない」
正面に座る彼はそっぽを向く。
「いやそういうのが…」
「ホントお前ら仲良いな~」
「いやみんな仲良いでしょ。だったらこんな風に同じテーブル囲えないわ」
「それな」
「ハハハ…」
俺は思わず苦笑いする。そうだな…そうじゃなきゃ、こうならないわぁ。
「…そこ笑うな」
左斜め前に座る彼は真顔で言う。
「てかちょっと騒ぎ過ぎたな」
「そうねぇ…」
「絶対迷惑になってる」
「さすがに出禁くらわないよね」
「いやこれくらい平気だろ。他のお客さんあんまいないし…」
「もし出禁になったら来年もあまおうパフェ食べられなくなる~」
「お前ホント好きだなぁソレ」
あーあ、きっとこれからも、多分学生のうちはこうなんだろうな、俺達。
そう思いながら、俺はミルクセーキを一口飲んだ。

2

ダブル ピリオド ②

「そういや、何で2つの時代を列車、そしてその境界を乗換駅に例えたんだよ」
ふと思い出したように、右隣の彼が尋ねた。
「あー分かる」
「同じこと思ったわー、何で?」
みんなは理由が気になるのか口々に喋りだした。
まぁそうなるだろうな…と思いながら、俺は種明かしをした。
「言ってしまえば今回の時代の切り替えは、”人為的に予定された”切り替えだからだよ。普通、そこら辺の切り替えって突然起こるし…意外と気づかないってことが多いだろう? 事前にそうすることが決まってるから、電車の乗り換えのようだなーって、俺は思っただけ」
「あーそういうこと?」
「相変わらずお前は変わったこと言うよな」
「どーせこれからもそんな調子なんでしょうね」
「じゃなかったらつまんねぇ」
周りのみんなは納得したようだった。よく分からないけどなぜか安心した。
「あーあとさ、あとさ」
俺の言葉に反応して、みんなの視線がすっと集まった。何を言うんだろうコイツ、と彼らは思っているに違いない。
「さっき俺、”2つの時代は同じ瞬間に、同じ場所にはいられない”って言ったじゃん」
「そうだな」
「そうだけど?」
「…でもここでは仲良く並んでるな~って」
俺は笑いをこらえながら言い切った。
「は?」
「何言ってんのコイツ」
案の定俺の言ってることが理解できないのか彼らはぐちぐちと文句を言い始めた、が。
「…あ俺コイツが言いたいこと分かっちまったかもしれない」
「マジで?」
「あー私も」
「え、お前まで⁈」
5人中2人が俺の言いたいことに気付いたようだった。
「ねぇどういうこと⁇ 教えてよ~」
左隣に座る彼女が、ネタを分かってしまった2人に尋ねる。
「あのな、2つの時代の名前の一文字目に注目してみ」
俺の右隣に座る彼が笑いながら言う。
「…は? えーと、”へい”と”れい”… あ、」
左隣に座る彼女の目がくっと見開かれた。
「ああああ⁈」
「え、どういうこと? どういうこと?」
左斜め前に座る彼が、彼の正面に座る彼女に身を乗り出して尋ねる。
尋ねられた彼女は口元を手で覆いながら言った。
「…アンタらの名前ぇ!」
「…は?」
「ああそういうことか」
「えお前分かるのかよ⁈」
どうやら俺の正面に座る彼は分かったらしい。
「なぁどういうこと?」

4
4

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 2.コマイヌ ㉑

「…アンタ、ボクらにずっとくっ付いていたけど、そーとー暇なんだね」
先を歩いていたネロが振り向いて言う。
「いや、それでもいいじゃん。別に他のみん…」
「それな! ずっとおれも暇で暇で仕方ないんだと思ってた。ま、本人の前で邪魔とか言えねーし」
耀平の発言に、わたしは凍り付いた。
「まーそうだな~、でも今邪魔って言っちゃったじゃん」
師郎が耀平に向かって苦笑する。
「にしてもさー、耀平、何でアイツのこと助けたの? 例外中の例外の、本来なら異能力のことを知るハズはないのに、知ってしまった常人に、”異能力者”として情を持たせてもいいの? フツーアウトでしょ」
ネロの言葉に、耀平はぴたりと足を止めて応えた。
「え、単純に面白そうだったから、それだけだぞ? 異能力を知ってしまった常人という面白い存在の前で、能力使ったらどうなるか、そういうキョーミ」
え…? わたしは言葉が出なかった。わたし、面白いモノなの…?
「耀平はいつもそんな調子で生きてるよな。ま俺もそう思ったけど」
「だろ⁈ やっぱそう思ってただろ?」
彼らがわたしによくしてくれてたのは、ただの興味からだけ…? わたしは、自分が勘違いをしていることにようやく気付いた。
「…待って、みんな、わたしと仲良くしてくれたのは、ただの興味なの?」
彼らは少しの間沈黙する。

6
7

連歌

皆さんこんばんは、相も変わらぬmemento moriです。
長らくお待たせいたしました。先月より募集していた連歌企画参加者をとりあえずここで締め切りたいと思います。なお、りんちゃんは迷ってるみたいだったから結局どうするか教えてね。

それでは改めて今回の連歌企画のルールについて説明したいと思います。
連歌、というのは、複数人で長歌を詠む、というものです。長歌、というのは、和歌をさらに長くしたもの、五・七・五・七・七・五・七・五・七・七・五...と続いていくものです。ではその方法について説明します。
まず一人が、「五・七・五」の形で俳句や川柳のようなもの(笑)を詠みます。これは、そこで完結する形でも、次に繋げるような形でも構いません。そして、次の番の人が、それに受ける形で「七・七」とまた詠みます。その次の人はまた「五・七・五」次に「七・七」、といった形で進んでいきます。
現時点では、今月中に十周を目処としています。様子を見ながら適宜変更したいとは思っています。最終的に出来上がった長歌をまとめ、発表してこの企画は以上となります。

現在参加候補は以下の10人です。(敬称略)
イカとにゃんこ、稀星-キセ-、藤しー、ホタルとシロクマ、るーびっく、サキホ、サクラボーズ、333と書いてささみ、fLactor、ちょっぴり成長したピーターパン
参加表明したのに名前がないぞーって人、やっぱりやーめたって人、「藤しー」ってなんて読むん?って人、レス欄で知らせてくださいね。あと藤しーさんもお願いします(笑)

順番は明日、テーマは月曜日に発表して、月曜日からスタートしようと思っています。是非お見逃しのないよう。
タグは「連歌」に固定します。よろしくお願いいたします。

初の試みで少し不安な点もありますが、うまくいくことを願っています。
何か質問等あれば、これもレス欄でお知らせください。

ではでは。張り切っていきましょう。
memento moriでした。

9
3

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 2.コマイヌ ⑰

「…あいつの能力の話、ちゃんと聞いてた?」
あ、そうだった、とわたしは思い出した。そもそも目が発光してるし…そういえば、どういう能力だっけ?
「あいつの『人やモノの行動の軌跡が見える』能力を使って、お前の行動を追っかけてるんだよ。でも、あいつの能力じゃ、行動の”軌跡”は見えても、誰のものかの特定はできない。ここでネクロマンサーの登場だ。ネクロマンサーの『過去そこにいた人やモノが残していった記憶を扱う』能力で、記憶を見て誰のか判別してんだよ」
わたしの心を察したのか、師郎がご丁寧にも説明してくれた。
「…なんか、探偵みたいだね」
ふと思ったことを呟くと、師郎は目を丸くした。
「は? あの2人超バカだぞ? ぶっちゃけ俺以下だから」
「ちょっと気が散るから黙ってくれる?」
不意にコマイヌが振り返った。その黄金色の目はあの明るくおしゃべりな耀平のものではなく、むしろ獣のような恐ろしさが灯っていた。
その恐ろしい目に睨まれて、わたしは恐怖で沈黙したが、師郎は慣れているのか、すまんなと言うだけだった。
これ以上文句を言われるのは嫌だったから、わたしは黙って彼らの後を付いて行くことにした。

6

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 2.コマイヌ ⑯

「”コマイヌ”、能力発動時はただでさえ目の色目立つんだからフード被れよ」
そう言いながら、ネロは彼のウィンドブレーカーのフードをひっつかんだ。
「あー忘れてた。でもお前の赤紫もめっちゃ目立つじゃん」
耀平、いいや”コマイヌ”が笑いながらフードを被った。
「そうだネロ、お前もちょっと手伝えよ」
何を思いついたのか、不意に彼は言った。
「は…あーはいはい、分かった分かった」
ネロは一瞬、意味が分からないという表情をしたが、すぐに理解したのかその目をあの時と同じ赤紫色に光らせた。
「んじゃ、行くぞー」
そう言って”コマイヌ”はおもむろに歩き出した。
その少し後ろにネロ、いや”ネクロマンサー”が付いて行った。
「そいじゃ俺たちも行くかーっ」
師郎のその言葉に、黎が微かにうなずいた。
「…ちょっと待って行くって…」
わたしはまた目の前でことがどんどん進んでいるせいで、混乱していた。
「ぐずぐずしてると置いてかれるぞ? アイツどんどん先へ行くから」
そう言って笑いながら師郎はコマイヌの背を指さした。
「そもそも彼…”コマイヌ”はどうやってわたしのストラップ探すの? 探す対象見たことないだろうし、そもそもわたしがどうやってここまで来たか知らないよね?」
思わずそう聞くと、師郎はちょっと驚いた。

3

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 2.コマイヌ ⑫

「もう面倒くさいしいいじゃん、この通りベラベラ喋っちゃったし、そもそもある程度時間が経って定着しちゃったから、下手に記憶を奪えないよ。―記憶は人間の人格を、魂を構築する。それを下手に改変すれば、そいつだけじゃない…社会だってブッ壊す可能性があるんだ…」
どことなくこの言葉に、彼女が”ネクロマンサー”を名乗る理由があるような、そんな気がした。
「あ、そうだ―ちょっと聞いていい?」
わたしはふと、さっき聞こうと思ったことを尋ねた。
彼らの視線が、すっとわたしに注がれる。
「みんな仲いいけどさ…どうして?」
全員が、ほぼ同時に吹き出した。
「どうしてって…なぁ?」
「こうなってるのも多分縁とかってやつだろ?」
「そもそも、縁じゃなかったらこうも年齢層バラけないだろ?」
「それな」
薄々気づいてたけど、みんな歳違うの? じゃあなんで…
「この街異能力者多いもん…みんなここに集まっちゃうから、自然とこうなるよ」
ネロがショッピングモールの床を指さしながら言う。
「ここ結構田舎だからな~どーしてもここに…」
「学校のヤツに出会った時が一番嫌だ」
「それな、おいおいどこの誰だよとか聞かれそうだしな…」
またわたしのことを放置して話を進めているから、わたしはさっき気になったことを質問する。

5

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 2.コマイヌ ⑪

「…一応黎はちゃんと喋るからな」
驚きが顔に出ていることに気付かれたのか、師郎が真顔で言う。
黎自身は喋れないとでも思っていたのかと言わんばかりに冷たい視線を送ってきた。
「…なんか、すごいね…わたしなんかよりもずっとすごい」
「いや別にすごくなんかねーよ。某マンガや某アニメや某ラノベに出てくるヤツよりずっと地味だし、第一日常生活やっていく上では出番あんまないし」
わたしの誉め言葉に、耀平は苦笑する。わたしはそうかなと首を傾げた。
「なんだかんだ言って1番実用性あんの黎じゃね? 暗視効果なら暗い中でも便利じゃ…」
「現代社会生きる上ではあまり出番ない。あっても停電時。ぶっちゃけ師郎のが1番役立つだろ… 逆に実用性1番ないのは多分ネロの」
「ちょ、黎それはヒドイよ!」
師郎の発言を否定しながら、しれっと毒を吐いた例に、ネロは抗議する。
「んなこと言ったら1番使用率低いの耀平じゃん? ボクはちょいちょい『他人に能力使ってるとこバレたから証拠隠滅してくれ』って頼まれるけど、耀平のその能力はあんま使い道ないじゃん!」
「あるわ! 落とし物したときとか… あとさネロ、今回は自分の証拠隠滅忘れてるぞ」
多分わたしのことを指摘され、ネロは頬を膨らます。

4

雨の中

「…」
日本の夏は結構雨が多い。地域によっては違うけど、最近は地域に限らず本当によく降る。俗にいう、『ゲリラ豪雨』ってやつである。
あいにく、今自分はゲリラ豪雨に遭っていた。残念ながら折りたたみの傘すらない。
家まではそれなりに距離がある。別に誰かの傘に入れてもらうことは最初から考えていない。―そもそも、そんな友達などいない。
だから濡れても構わない、と豪雨の中を歩いていた。
でもさすがに雨のせいで風邪をひくのは嫌だから、普段通らない公園を突っ切る近道ルートを歩いていた。
あたりはもう暗いけど、公園の街灯でわりと明るかったし、―これぐらい暗くても、十分あたりは見えるから、困らない。
こういう時ばかりは、こんな自分でよかったなとちょっとだけ笑えた。もちろん心の中で。
ただ夜目がきくんじゃない―暗くてもほぼ平気なのだ。でもこんなことができるのはこういう”人がいない”ところだけ。
そういうことを考えながらぼんやりと歩いていると、後方から人が走ってくる音が聞こえた。自分と同じように、傘を持っていないから濡れたくなくて走っているのだろう。
近付く足音を聞きながら、パーカーのフードを深くかぶりなおした。
足音が近づき自分を追い越す、そう思ったその時―
「―ほい」
不意に、後ろから呼び留められた。ちょっと振り向くと、そこには小柄な少女がいた。
「…」
少女は真顔で折りたたみの傘を突き出している。
「…使いな」
「…」
「遠慮はいらない。この通りこっちには傘あるし…明日回収するからさ」
少女はちょっと笑って自分が持つ傘を傾けた。
こういう時は受け取るべきなのか―困惑していると向こうからもう1つの足音が。
「おい、急に走り出すなよ… 誰こいつ」
少女の友達らしき、走ってきた少年がチラッとこちらを見た。
「誰だか知らない…でもかわいそうでしょ? 傘ないし」
少女はなぜか面白そうに笑った。
「まぁそうだな… てかお前、早く帰らないと親にまた怒られるぞ?」
「はいはい分かってます~ それじゃあね、ちゃんとそれ回収するから」
少女はこっちに傘をやや強引に押し付けると、向こうへと歩き出した。
「あ、おめ…じゃ、気を付けて…」
少年はこちらにちょっと会釈してから少女を追いかけた。
あの2人にも、自分と同じような匂いがした。

4

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 2.コマイヌ ⑩

細かく説明されると逆に意味が分からなくなる。困り果てたわたしに気付いたのか、耀平が補足してくれた。
「ま~どうやら人とかって一瞬でも1つの場所に留まってると、記憶というか感情ていうか…その手の”何か”を残していくんだってさ。それがこいつには見えるらしい」
へぇ~とわたしはうなずいた。
「じゃ、耀平や師郎は? 何か持ってるの?」
その何気ない質問に、ネロは眉を寄せた。
「…それも聞くのかよ」
「え、だって気になるじゃん」
まぁまぁまぁと耀平はネロをなだめた。そしてわたしに向き直る。
「おれのは―おれのヤツは”コマイヌ”っつーんだけど、『モノや人の行動の軌跡が見える』能力」
へーすごいじゃん、思わずそう呟くと、本人は少しわざとらしく照れた。
「で、俺のが『他者から見た自分の姿や聞こえる声を違うモノに見せたり聞こえさせたりする』能力。ま、要するに『他のモノに化けてるように見せたり聞こえさせたりする』能力だよ。―そして能力者としての名前は”イービルウルフ”。それで―」
師郎に続いて口を開いたのは、なんと―
「―『暗闇の中でも昼間と同じくモノを見ることができる』能力、要約すれば『暗視』がオレの能力。もう一つの名前は”サイレントレイヴン”」
急に黎が喋りだしたから、わたしは肝心の話の内容を理解できなかった。

7

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 2.コマイヌ ⑨

「あの~…」
わたしのこのつぶやきに、師郎が反応した。
「あぁ、黎のことだろ? アイツ元々そんな喋んねーから。だろ?黎」
当の本人は無言でうなずいた。
「元々そーゆー奴だからねー黎は。分かっててボクらもやってるしー」
ネロは黎の方を見る。彼らはかなり仲が良いようだ。
「…とりあえず、異能力のことは大体分かった、かも…」
「うそこけ、本当は全然だろ?」
ネロはわたしをちょっと睨みつける。まさにその通りだった。
「とりあえず、異能力は生まれつきとかじゃなくて後天的なものであることと、発動すると目が光ることは分かった」
おかげで、初めて会った時と今でネロの目の色が違う理由が分かった。
「…でさ、ネロの能力は、『記憶を消すこと』?」
ふと思ったことを尋ねてみた。
「あれはボクじゃなくてネクロマンサー。『記憶を消す』というよりかは『記憶を奪う』が正しいかな」
「え それってすごくない?」
わたしの反応に、ネロは冷たく返す。
「…別に異能力があってもなくても変わらないよ? あと補足だけど、ネクロマンサーの能力は『過去その場にいた人やモノの記憶や、今いる人やモノの記憶を扱える』能力」

2

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 2.コマイヌ ⑧

「…そしたらさ、異能力はどうやって引き継がれるの? 生まれつきとか…そんな感じ?」
この質問に、耀平が吹き出しかかった。
「あ~っ、もしそうだったら異能力なんぞ常人も知ってるハズだぞ~」
え、とわたしはちょっと思考停止した。じゃあどうやって…
「異能力っつーのはな、大体10歳前後で発現するんだよ。しかも、急じゃなくてジワジワとな~」
師郎は笑いをこらえながら言う。だが隣にいる黎は無表情だった。
「最初はなんか変だなって思ってたケド、完全発現して記憶が一気に来てから納得したー」
「あーそれな! でもさ、記憶が顕れる時結構キツくね? おれ気持ち悪くて仕方なかったー」
「ほんの数秒だけどヤバいよなあれ。けど、目が発光してんのに気付いた時が何気怖い」
「あ~あれはね~。でもボクはそれに気付いた時に記憶来たから、うん、平気だった」
「いいな~、俺はさ、友達になんか一瞬目が緑っぽかったって言われたからマジ怖かった」
「発光する目って一目で発動してるか分かるけど、地味に困るよな」
いつの間にか3人は、わたしそっちのけで雑談を始めていた。が、わたしはふと、黎だけが彼らの会話に入っていないことに気付いた。

3
2