人は弱い。
弱いから、怖がる。人は臆病だ。
臆病だから、大切なものを守る。人には大切なものがある。
大切なものがあるから、それを守るために強くなる。人は、強い。
人は、弱い。だから、強くなる。
混乱の渦を逆走するふたりの子ども。止まぬ悲鳴の中、押し潰されるようになりながらも、先程飛ばされたその場所、神殿の入り口へと到着する。
神殿からもう人は出てこないようであった。しかし、中からは確かに物音が聞こえる。叫び声か悲鳴か、そのどちらともとれるような声も。
ふたりのすぐ側で、柱が崩れた。
顔を見合わせて頷き合い、中へ足を進める。音のする方向へ行く。神殿の崩壊する音と、はっきりとは聞こえない止まぬ怒声が道標となる。
どうやら中央で事は起こっているようだった。
「あれだ、たぶん。」
ふたりは身を潜める。少年が指をさす先には、人影が見える。
「お兄ちゃんはいる?パパは?」
少年は首を振る。わからない、の意だ。
「たぶんいると思うけど。」
さっと青ざめる少女にフォローを入れる。
「やめろ東雲!ここで暴れたって何にもならん!」
誰か大人の声。もしかしたら少女の父であったかもしれないし、少年の父であったかもしれないが、判別できるそれではなかった。
また、何かが壊れた音がする。
ネジを巻いたら
動き出す僕のオルゴール
ネジが廻り廻り
歌い出す僕のオルゴール
ネジを巻きすぎて
狂い出す僕とオルゴール
幸せをおすそわけ
僕の幸せを語ったら
貴方は泣きながら笑ってくれた
普段の僕がこんなにも
孤独なふりをしていると
なにかから抜け出せない僕を
きっと貴方は知っている
きっと貴方は気づいてる
今日は幸せ
シアワセ
誕生日っていう言い訳がないと伝えられないような、普段口にすることすら躊躇ってしまう気恥ずかしい言葉たち。
今の私は、今の私がきっと1番好き。それはとても幸せなこと。そんな私を形作ってくれた人たちに、今日はどれだけ「ありがとう」と言えるだろう、伝えられるだろう。
10代最後をどれだけ彩ることができるかは、きっと私次第だから。
そんな努力をしていけたらいい。
だから、私に関わってくれる人たちへ、とりあえずはここで伝えます。
私と関わってくれてありがとう。
濡れた浴衣の裾が冷たい
暗くてよかった
グラスの結露で濡れたって言えるから
暗くてよかった
赤い目が見えないから
暗くてよかった
つかもうとした手を見られなかったから
暗くてよかった
私の笑顔だけが残るなら
それだけで、いいよね。
冷え切ったカーテンから目を覗かせれば、
熱が息吹く夏の空が眩しく横たわっている。
サイダーでも買ってこい、というように。
お前のせいで、ぬるくなってしまうよ。
夏は、それだからいいんじゃあねえかと笑った。
汗を浮かべるのが夏らしいや、呵々大笑は入道雲に消えた。