センチメンタル
じりじりと灼かれるような夏でした。
八月の終わりはいつだってとうめいで、
九月はせかせかとやって来てはぼくらの
夏を追い立てる。
お わ り だなんて知らなかったのに
なんていまさらうそぶいてみたって
これで
お終い。
ぐっばい、
なつやすみ…
雨が、
地面に打ち付ける。
あの空は、
青く、綺麗だった。
クロクナル。
クロクナッテク。
その雨音さえも
綺麗なのか、汚いのか。
雨上がりの
アスファルトから匂う、匂い。
そっとふんわり包む。
クロクナル。
クロクナッテク。
私の足跡は。
キエテイク。
キエサッテク。
涙のようだ。
もしも、ここを離れたとしたら、
君はどう思うだろう。
この雨を恨むのか。
拒むのか。
お天気雨の朝だよ
気づかれないくらいにひっそりと虹が出ている朝。
学校のある朝だよ
なんとなく浮かない顔をした人が多い朝。
やってきてしまった朝だよ
今日もまた始まることを知らせる朝。
朝は嫌いだった。昼も嫌いだった。
夜はもっと嫌いだった。
朝になれば夜がこなきゃいいと思い
昼になれば惰性でごはんを食べて
夜になれば朝なんかこなきゃいいと思っていたんだ。
眩しすぎる朝も、群れていなきゃいけない昼も、一人ぼっちの夜も。
全部全部嫌いだった。
でも。
君とおはようって
挨拶する朝。
君とくだらないことを
LINEするお昼休み。
君とおやすみって
言い合って眠りにつく夜。
「君と」が増えて
なんにもなかった僕の毎日に
「君」がいてくれる。
いままでの僕には考えられないくらい
明るくて、楽しくて…
「しあわせ」といえる朝が今日もまた。
忘れかけていたが、自分にとっての日常はこちらである。様々な色が飛び交っているあの時間ではなく、黒一色にちょっぴりの飾りが煌めいているこの時間。
久しぶりに見上げる見慣れた空。そのはずなのに、どうしてこうも特別輝いて見えるのだろう。
なんだかひどく独りを感じてしまう。決して太陽より暖かくはない月は、やはり暖かくはない。
今この瞬間、この景色は瑛瑠のものだ。
アルクトゥルス、スピカ、デネボラ。
呟きながら線で結ぶ、春の大三角。
ちょっとくらいならいいよね。
窓を開けると、寒いながらも昼には暖かさを運ぶ、確かな春の夜風が入る。
「夜って、どこまでが夜なのかしらね。」
ふと、夢を思い出す。
「……あなたが教えてくれるのかな、東雲さん…?」
空が東雲色に染まるまで、まだもう少し。