今はなんでも記録に残せる
録画、撮影、録音なんか良い例だ
その一方で
記憶にはあんまり残ってないのかもね
あとで見れば、聴けばいいやなんて
「今」への意識は薄れてしまっているのかも
記憶と記録のおはなし
「大丈夫ですよ、奥さん。僕だって冬の山の危険性ぐらいわかってますし、何より僕一人じゃないですから」
そう言ってアーネストは横を見た。視線の先には、路肩に座り込んで木切れをナイフで削る黒い目の少女。
「シェキナ、そろそろ行くぞ。支度は、良いのか?」
「ん、ええいいわよ、アーネスト。いつでも」
シェキナと呼ばれた少女は、短いブルネットの髪をかき上げて言った。
シェキナ・アビスタシ。アーネストと同じソルコム経済学修学院に通う貸馬屋の娘だ。
そう、その貸馬屋とは他ならぬあの貸馬屋である。馬は貸せねえが、うちの娘なら貸してやるよ、わっはっは!と言って、連れていくように言ってきた。シェキナ本人も大してまんざらでもない顔をして、一度ケンティライムに行ってみたかったの、なんて顔を赤らめながら言うもんだからたまったもんじゃない。
接点がなかったわけではない。同じ講義も幾つか取っていたし、一緒にお茶したこともある。しかし、それだけだった。アーネストは彼女のことを何も知らなかった。
なんでこんなことになってしまったんだろう。とれだけトホと嘆いても、流石に今から帰ってくれなんて言えない。
ただ一つ幸運だとすれば、彼女は何度か徒歩でかの山脈を越えたことがあることだった。しかしその彼女も冬のアイネ・マウアは初めてらしい。大丈夫か?
「あんまり遅くなっても名残惜しくなるだけだし、もう行きます」
「そうか。気を付けろよ、アーネスト」
「わかってますよ、ライネンさん」
「あ、そうだ、」
「?なんですか」
「アーネスト」
「はい」
「どさくさに紛れて押し倒したりなんか「んなことしませんよッ!!!」
さっきからライネンがニヤニヤしていたのはそのせいか。
「アーネ、行っちゃう?」
その腕に抱かれているカルクは、対照的にしょんぼりとした顔をしている。アーネストはその頭を撫でた。
「大丈夫、兄ちゃんすぐ戻ってくるからな」
カルクはこくりとうなずく。アーネストはその顔にニッと笑いかけると、矢筒と弓、肩掛け鞄を担いだ。
「それじゃあ、行ってきます!」
二人の過酷な山越えの旅が始まった。
雨のとあるアパートの1室で
「雨は嫌いだ。外に出れないから」
なんてつぶやいたら
「雨は嫌いになれないな。
雨音とか水たまりを弾く音が好きなの」
そう返ってきた。
殺風景な部屋に置かれた、まるいテーブルに
まっしろなコーヒーカップを2つ。
まっくろなコーヒーを注いで安らぐ雨の休日。
君が嫌いになれない理由が
少しだけ分かった気がした。
雲1つない青空
とても気持ちがいいものだけど
何故か不安になってくる
雲で空を覆っていれば
この中にいればいい
そう思えるのに
雲1つない青空
遮るものは何もない
どこまでいけばいいんだろう?
私はどこまで羽ばたける?
ねぇ
どうしようもなく
不安になってくる
君の横顔
見ているだけで鼓動がたかぶる。
これが、、、恋。
そう気ずいたのは
中3の夏。
もう間に合わない。
いつかは変われる
そばで支え続けると
言って欲しかっただけ
でも
変えならない現実に涙で濡れるだけの日々
いつか終わりを迎えると
信じる事も出来ず
過去と今に縛られ続ける僕を
いっそ消してくれればいいのに
もう
それだけ
それだけでいい
君は歌うの
そのビー玉が触れあうような囁きは
僕の心をざわつかせるの
涙
涙
だから僕は
青空色の涙を流して
ラムネ瓶のように歌うの
歴史はいつだって偶然の所産だときみが云う「なにかの弾み」でぼくはきのうライオンに食べられていたっておかしくはなかった。
(石鹸のにおい)
煙った町の西に暮れてしまった陽のかたちさえもう忘れたのは夜だから。はき出した水蒸気の(まだみえない)行方を目でなぞる。
雲一つない青空に
くっきりと
飛行機雲一筋
いつもならすぐ消えてしまうのに
存在を示すかのように
しっかりと
今日は気持ちいい秋晴れだったのに
あぁ
明日は雨かな
冬はココアに溺れる
冷める前にと舌を火傷しそうになり
飲み干したら飲み干したで
底に少しだけ溶け残ったココアが名残惜しくて
ついもういっぱい温かいココアを注いでしまう
カカオの香りが部屋いっぱいに広がって
甘い香に酔ってしまったのか
カップを手にしながらうとうとするのも
冬のささやかな楽しみである
特に雪にはよく映えるから
深々と降り積もる姿を
温かいカップを片手に眺めるのは
なんとも言えない風情がある
甘さで口が麻痺するのなら
柑橘の蜜柑を隣に添えるのも良い