「りんちゃん」
呼ばれて振り向くと、沢山の人がずらっと
並んで微笑んでくれる
なんて幸せなんだろう
君に優しくしてもらった時
私は嬉しくなる
でも、
それが自分の中で普通になって
君に優しくしてもらえなかった時
私は寂しくなってしまう
だから、
私はいつも君に会いたくないと思ってしまう
こんな私を君は受け入れてくれますか?
眠る夜
なんだかいい夢が見れるな気がする
そんな気がする
・・・だけ
この物語の主人公は俺ではなく、桜木ノアである。
……と、大層なことを一言目に書いてしまったが、別に大した物語ではない。これは俺の視点で見たただの日常で、桜木ノアの友人としての俺の日々を切り取っただけの物である。
まあ、要するに物語なんかじゃない。
にも関わらず、俺がこうして文を書きつけているのは、創作物ではなくとも物語っておきたかったからだ。ただの自己満足に過ぎない。
けれども、この文を読んでくれる誰かがいればいいと思っている。だから、俺の拙い文で良ければ、暇なときにでも読んでやってくれないか。
桜木ノアという、強くて弱い、大胆なようでいてとても繊細な、矛盾した人物の話を。
「瑛瑠、おはよ。」
ぽんと肩をたたいてきたのは歌名。
「難しい顔しっちゃて……可愛い顔が台無しだよ。」
鈴を転がしたようなころころとした明るい声に、瑛瑠も笑顔を向ける。
「歌名、おはよう。美少女と狐と夢に浮かされていました。」
そんな瑛瑠の言葉に、歌名が笑顔のまま固まる。
瑛瑠自身脳内がカオスなのだから、表現に多少の支障が出るのは仕方がない。
第一回会議(仮)の後、チャールズとジュリアに謀られ『Dandelion』で英人と会い、帰り際に黒髪の美少女と邂逅。さらに、狐についての情報量の多さに混乱した。そういえば、図書室では名前を聞きそびれた先輩と出会ったんだっけ。
夢を見た日は、約束についてチャールズに翻弄されたななんて。
どこから話そうかと考えを巡らせ、あっと思う。
「歌名、聞いてください。」
瑛瑠が真面目な顔をするものだから、歌名だって身構える。
「私、望さんとデートします。」
会いたいって思っても
貴方はいないんだから
仕方ないな
なんて思えるわけないじゃん!
「怪物って何して過ごすんですか?」
ふと、浮かんだ疑問。投げかけてみると、
「一応、仕事はあるよ〜。」
雨月さんが答えてくれた。
続けて、
「どんな仕事かっていうと、怪物になるべき人間を探したり、その人間をこっちの世界に連れて来たり、するんだけどあんまり、そこまでの大罪を犯す人間居ないから、仕事はあんまりないよ〜」
と教えてくれた。
すると、風花さんがやってきた。
「仕事しろって、上が言ってる。」
もともと、風花さんの声は低いが、面倒くさいからか、いつにも増して、声が低かった。
「私達にいうってことは、次のターゲットよっぽど強いんだろうね〜」
のほほんと雨月さんが言った。
「それって私も、行くんですか?」
風花さんは、黙って頷いた。
「それが何故か、警察の精鋭班の女の子達らしい。」風花さんがそう言うと、雨月さんが目を輝かせて、「怪物にしないで、女の子達喰べちゃおうよ!」と言ったが、風花さんに「だーめ!」と言われたため、部屋の隅でふてくされていた。
ここって、本当に、魔界だよね?
そんな私の疑問は私の中にとどまった。
【続く】