ベルガモットに加えて、レモンとオレンジの香りが部屋に広がる。その原因の隣には、金塊に似た小さな台形。つかの間のティータイムである。
「チャールズの淹れてくれたお茶を飲むのって、なんだか久しぶりじゃないかな。」
ほっと息をつくと、瑛瑠はそんなことを言う。
チャールズも白いカップを手にして、相槌を打った。
「最近はプロのところへばかり行ってしまって、舌が肥えてしまっていますからね。あまり淹れたくないのです。」
そう言って微笑う。
確かに最近は『Dandelion』を筆頭に、カフェに通っていた節がある。
「安心して。チャールズは十分お茶淹れのプロだから。」
若干放り投げるように言う。
チャールズは面白そうに笑う。
「言いますね、お嬢さま。」
「口の達者な付き人がすぐ傍にいるもので。」
小さくフィナンシェを頬張ると、優しい甘さが、柔らかく口に広がった。
そして、ほのかに残っていたレディグレイの香りが、ふんわりとした焼き菓子に、優しい風味をまとわせたのだった。
青く光るイマは
気づくのもきっと後だけど
私に映るイマは
青に混じった黒が
とても綺麗で汚い
鬼気迫る鬼ごっこ
嬉嬉として追い詰める足音に
聞き耳を立てるかくれんぼ
奇々怪々の危機のなか
利き手のなかの百円硬貨に
危機の回避を庶幾う
いつも夢ごこち。
夢から覚めようとも
覚めきれない私とあなた。
このままずっと夢の中に
いよう。あなたと共に。
いつか。そう。
そのいつかがきたら一緒に
行こう。
「おはよう!我が友よ!」
「 」
「おや?今日は一段と元気がないなぁ。一体、どうしたんだい?」
「 」
「そうか…それは残念だったな…よし!今日は特別にプリンをおごってやろう!とびきり美味しいやつをな!」
「 」
「いやいや、断じてプッ○ンプリンではないぞっ!とびきり美味しいプリンだ。」
「 」
「ほんとだぞ!嘘はつかん!」
「 」
「君の笑顔が見られるなら、なんだってするさ!」
「 」
「…いや、それはちょっと遠慮しておこう…。」
「チャチャさん、一体何をしたんです?」
オータローがチャチャに尋ねた。
「ああ、虫かごだよ。『生き物にぶつけることでその生き物を中に閉じ込める』能力」
「へえ……。つまりモンスターb」
「止めろ」
キタとラモスは下らないことを話している。
話は戻って、無事通り魔を捕えた彼らであった。が、これをどうしたものかと悩んでいたところ、リータが口を開いた。
「ねえチャチャさん」
「ん、何?」
「その中に私も入れませんか?」
「ああ…うん、行けるけど」
「じゃあお願いします」
「うん、けど一体何をするんだい?」
「お気になさらず」
そう言ってリータは虫かごの中に入っていってしまった。
それから五分後。
「ただいま戻りましたー」
リータが突然戻って来た。
「おお、お帰り……って、通り魔すごいことなってるけど大丈夫!?」
通り魔、放心状態でぐったりしている。
「何かすごいビクンビクン痙攣してんぞ!」
「ああ、大丈夫です。あのくらいじゃ死にませんよ。で、彼女についてですが」
「え、ちょっと待て」
これはラモス。
「そいつ女なのか?」
「はい。?」
「え、何、お前気付かなかったの?」
キタが煽る。
「彼女について、話を続けますよ」
リータ、構わず話し続ける。
「名前は神子元那由多。14歳。中学2年生。能力は『グラスホッパー物語』。『刃物で生物を斬るとき、代わりにその生物の抱えている嫌な記憶を切り離す』というものだそうです」
「なるほど。それで『慈善事業』か」
オータローが納得したように言う。
「……一つ良い?」
「何でしょうチャチャさん?」
「そいつに何したの?それだけが気になる」
「ああ、それは、………やっぱり内緒です」
「え…。すごい気になる。キタさん、可視化」
「オーケー!」
チャチャはキタに可視化を命じた。
「うんうん……えっ……へぇ………はぁ〜〜、おぉ、フフフ」
「え、何か分かったんですか」
「えー……。僕から言うことは何も無いよ」
(何やったんだ一体………)
オータロー、ラモス、マホ、チャチャの考えが見事にシンクロした。
「何はともあれ!これでこの子も仲間です!めでたしめでたし!」
斬って切る人 終わり