今宵の月を見あげれば
半月の少し前みたいな
無知で弱虫なあたし
おんなじ月が誰かには
満月に見えてるんだよ
たとえばあたしを笑う賢いあの子
おんなじ月がどこかでは
その光が届かないんだよ
それはきっと透明な涙の水溜まり
今宵の月を見あげれば
半月の少し前みたいな
もう少しで満ちるはずだよ
もう少しで強くなるんだ
無知で弱虫なあたし
”彼ら”って、よく分からない―わたしはそう心の中で独り言を言いながら、席替えのくじを引いた。
数分後、クラスの全員がくじを引き、中身を確認した後、座席の移動が始まった。
ちなみに、わたしの席は大体教室の真ん中らへんになった。
以前の席からそこまで離れてないから、慣れるのにあまり時間はかからなそうだ。
だが、わたしの1つ前の席になったは―
「あっ、よろしくね! 不見崎(みずさき)さん」
高い位置のツインテールがトレードマークの、クラスの人気者”笛吹 亜理那”。
わたしとは正反対の人物が、わたしの1つ前の席になった。
別に、誰が近くに来ようと気にするつもりはない、だが―
彼女は人気者で、いつも周りには仲の良い女子達が付いている。
…何か面倒なことに巻き込まれてしまいそうな気がした。
そもそも、こういう人はわたしみたいなのと関わること自体あまりないと思うから、別に良いのだけれど。
が、想定外のことが起こった。
「不見崎さんおはよ~」
席替えの翌日の朝、普段通りに学校に登校して、いつものように自席に座った。
ここまではいつもと何も変わらなかった。
だが、わたしが席についてから、少し後に登校してきた笛吹 亜理那は、今まで一度も関わったことがないはずのわたしに、声をかけてきたのだ。
愛することができない、と
少女の瞳は真っ赤っ赤
愛しているのに愛されない、と
隠し持ってたポケットナイフ
君の素顔は無いけれど
それでも君を愛してる、って
どうしてあなたはそんなにも
優しい笑顔を向けてくれるの?
あれもこれもダメ
僕らは檻の中
それなのに
夢はなにかと聞く
朝の暗闇 夜の光
隣り合った 僕らの魔物
魔物が吠えれば 僕らはゆらぐ
魔物が歩けば 僕らは迷う
僕らの前にはいつも牙を持った
魔物が立ちはだかる
人が笑う 嗤う 嘲笑う
「僕のこと?」
ああ またカレが持つ
闇に嵌っていく
「ねえ、歌名。その女の子、一人だったの?」
聞いたのは望。聞かれた歌名は頷いた。
「ん、一人だったよ。」
また、一人。瑛瑠と英人が会った時も一人だった。
「何をしていたかわかるか?」
「んー……何か見てたっぽいんだけど……。」
思い出そうと眉間にしわの寄る歌名。その神社にどんな背景があるのかを調べておく必要がありそうだと瑛瑠は思った。
「ちなみに、かんざしは身につけていましたか?」
あの少女が必死になっていたかんざし。その存在を聞くと、歌名は不思議そうに首をかしげた。
「かんざしって?」
チャールズがいとも当たり前の知識のように話すから忘れてしまっていたが、これは自分たちの文化圏外のものであった。
ただ雪を見ていたくて
教卓の上のスノードーム
そのなかの雪だるまが
ひどく息苦しそうで
たまらず泡を吐いた気がした
いつまで経っても積もらないこの雨が
いつか雪になって
降り積もるのを見てみたくて
割れた窓ガラスから吹き込む雨を
ただじっと見ている白衣の天使
舌を切る 鉄の味
なんかもう 人でなくて
俺はジョッキー 心をちぎる
熟れた夕陽 邪魔になって
目を閉じて オレンジ色
真っ暗じゃ 花が咲くぜ
川の終わり なんか寂しくて
叫びたくなって でもやめた
心底嫌いなあの子
なかなか解けない図形の問題
繰り返してしまう忘れ物
帰宅後の寝落ち
無断で部屋に入ってくる父親
正体の分からないモヤモヤ
まとまってくれない髪の毛
すぐほどける靴紐
憧れのあの人にはほど遠い、弱い自分
かんしゃく持ちの、歪んだ世界
綺麗でも、汚くもない淡泊な視界
所沢 初(オータロー)
高校二年生。本シリーズの主人公。大した活躍はしていないが、作者が言うのだから間違い無い。
能力 およげ!たいやきくん
逃走、回避行動に大きな補正がかかる。その成功率はほぼ100%と言って良い。単純な身体能力強化だけではなく、無意識でのルート選択、スタミナ切れがしなくなる、回避の際はほぼ未来予知に等しい危機察知など、その補正は色々なものがある。
作者のコメント
名前は、「ところざわ はつ」と読みます。「はつ」が嫌なら「うい」でも良いよ。
キタ
妖怪みたいな雰囲気の怪しげな青年。26歳。身長約190cm。体重約65kg。なぜ生きている。七つ道具を持っているらしい。仕事は自営業らしいが職種は不明。仕事の際は「喜多方颯(きたかたはやて)」の名を使っている。
能力 北風小僧の寒太郎
普通なら見えないものを可視化する。可視化には自分にのみ可視化、一部の対象に可視化、無差別の可視化の3種類がある。
作者のコメント
この人は何となく不審者であってほしいので本名は伏せています。
滝沢 真琴(ラモス)
高校三年生。元不良だが能力者になってからは足を洗った。かつては色々とやらかしたらしいが酒と煙草とドラッグだけは怖くてできなかったそうな。お前ホントに不良だったの?
能力 まっくら森の歌
追跡、足止めに大きな補正がかかる。成功率はほぼ100%と言って良い。単純な身体能力強化ではなく、障害物があれば回避するなり破壊するなりして押し通るし、たとえ完全に撒かれても、僅かなヒントから逃げ道を探り出せるし、万が一相手が瞬間移動しても勘だけで探せる。
作者のコメント
名前の読みは「たきざわ まこと」。この子は基本ツッコミ役にされてます。実は名前の由来は南総里見八犬伝の作者。
朝のSH前。集まる4人はいつもの顔ぶれ。
「それで、その少女に会ったということでしたが、状況の説明を願います。」
あの後、英人と望も教室に到着し、二人のやり取りを教えた。状況情報の共有を済ませ、本題に入る。
「会ったというよりも、見かけた,のほうが正しいかな。直接話しかけてはいないよ。でも、遠目から見ても、あの綺麗な髪と綺麗な顔は忘れないな。それくらいの美少女だった。だから、きっとあっていると思うの。」
歌名は話し方に熱が入る。自信のないことにはとことん弱気になる歌名がここまで言うのだから、信憑性強めである。
「神社で見かけた,ということでしたが、それは前回話していて先送りした神社で間違いないでしょうか。」
「そう!英人くんに見てもらいたいって言った神社!」
神社と少女に関連があるかはわからないが、これは行ってみなければならない気がする。
そしてきっと、みんな同意見でいるはずで。
「今週末は、その神社に行かなきゃですね。」
瑛瑠の言葉に、三人は頷いた。