「これでも私、中学生の頃は真面目だったの」
急に始まるこの語りに、この後輩はもはや慣れてしまった。私の話と関係のあることなんですか、なんてつまらないことは聞かない。それが、この子の好きなところだ。
「今でも十分真面目だと思いますけど」
「ううん。今はだいぶ不真面目になっちゃった。そうしている人たちが自由に見えて羨ましかったし、だから努めてそうしようとしていた時期があったからね。あの頃が1番真面目に真面目をやっていたな」
そして、褒められることにも慣れていた。
そう言うと、なんとなくわかりますと返される。嫌味なんかではないし、そういう風に受け取らないことをわかっているから、彼女にはこんな話ができる。
「私は、勉強ができる子の部類だったんだな。そして、そういう自覚もあった」
「……だから、真面目?」
そうじゃないことを知っているくせに、そういうことを聞く。でも、そういう質問は嫌いじゃない。
「そういうことじゃないって、わかっているくせに」
言うと、いたずらっ子のような笑みを見せ、彼女は再び黙った。
前回の続きだが、能力に頼ることにした那由多。すぐに変化が現れた。
彼女の両腕、二の腕の真ん中より先の方全体を覆うように、西洋の鎧に付属する手甲が出現した。ただ一つ奇妙な点があるとすれば、手首より先、本来手の甲を守る金属板やグローブになっているであろう部分が、手の全体を覆うようについた内側にやや湾曲した長さ50cmほどの刃になっていた点だろう。
『ホラ、刃ハ提供シタシ、彼奴ニ勝ツ力ハ君自身ガ持ッテル。後ハ君ノ好キニシナ』
彼女の能力が楽しそうに言う。
(ありがとう。今一番欲しかったものをくれた。……しかし、これじゃあ蝗(グラスホッパー)というより、蟷螂(マンティス)だよなぁ……)
「んん?何だァそれは?武器か?何もない所から出しちゃうの。うわすげ。しかし無意味だな。今の俺にはどんな攻撃も通らない!」
そう言って男は猛スピードで突っ込んできた。がしかし、那由多は、
「ああ、確かに『無意味だ』という意見に対しては賛成だよ……。しかし、『お前の防御力が』という意味だけどな」
跳ね飛ばされたアスファルトの欠片を弾き返し、更に男が繰り出した拳を懐に入り込むようにして躱し、両手の刃で思い切り斬りつけた。
「ボクの刃は身体を斬らない。お前の『記憶』だけを斬る!」
「ガッ……!」
「うおおおおぉぉおおらあぁぁああぁあ!!!」
能力生命体の具現化によるブラッシュアップを果たした彼女の能力による幾度もの斬撃は、プラスマイナスに拘らず男の記憶を切り裂き引き裂き掻き回し、その精神的ショックは男を気絶させるには充分過ぎた。
勢いを失い倒れ込んでくる男の身体の前で、那由多はしかし攻撃の手を休めなかった。
両腕の変形手甲を消し、両足を前後に配置し爪先を右に向け深く腰を落とし右手を固く握りその手を左手で包み込み、ぐん、と男に背中を向けるように上半身を捻り、
「ダメ押し、だぁッ!!!」
上半身を戻す勢いで男の胸部に拳を叩き込んだ。
「多くの他者の意見を聞いたり、経験したりできないのを補うために本がある。だから自分と合わない本もちゃんと読まなくてはならない」
「本を買うお金がありません」
「では図書館に行きなさい」
「わたしの村には図書館がありません」
この話に教訓はない。
距離が開けば開くほど
君の大切さを知って
距離が縮まれば縮まるほど
君を好きになっていく
嫌いになることなんて
できるわけないじゃない
私がどれだけ一途か知ってるの?