要請が必要な世界って哀しい
陽性にならないために自らが
慎めるような世界でなければ
まだ幼生のきみは養成されて
養正を身につけて立派に育ち
妖星も妖精も信じていいから
夭逝だけは絶対にしないでね
きみのため大切な人のために
休日、駅周辺をぶらぶらしていると、コーヒーショップのテラス席で、女神が焼きそばパンを食べているのが目に入った。
わたしは思わず近寄り、たずねた。
「それ、新メニューですか?」
すると女神はもぐもぐしながらこたえた。
「んなわけないじゃん。持ち込みだよ」
タブーを平然と破る。さすが女神だと思った。
'愛してるよ'をかっこよく言える人はいいな。でも、心が泣いている誰かを抱きしめるように囁いた'愛してるよ'が、その人の微かな希望になったら素敵だな。
雨が降り出したのはいつ?
あの子と友達になったのはいつ?
「大人っぽいね」が
罵倒に聞こえるようになったのはいつ?
時間の流れの無情さに気づいたのはいつ?
損得ばっか考えるようになったのはいつ?
大人になりたくないと思ったのはいつ?
「自分だけは違う」が言い訳になったのはいつ?
自分を見失ったのは
迷子になったのはいつ?
なにもわからなくなったのは、いつ?
帰宅すると、お父さんがもふもふになっていた。
「そういうことだから」
お母さんが言った。
「そういうことって、どういうこと?」
「お母さん、パートからフルタイムに切り替えるから」
「よく理解できないんだけど」
「だから、お父さんこんなんじゃ働けないでしょうが。あなた悪いけど、夏休みの短期留学はあきらめてもらうわよ」
「嘘でしょ。ずっと計画してたのに。やだよそんなの!」
「わがまま言わないで。大人になってからでも遅くはないでしょう」
「大人になってからじゃ遅いの!」
「いい加減にして……とにかくもふもふになっちゃったんだからどうしようもないの」
「お父さんのばかぁ!!」
「お父さんに何てこと言うの」
「もふもふじゃ何言ったってわかんないよっ」
わたしは泣きながら自室に走り、ベッドに突っ伏した。
いつの間にか眠ってしまったようだ。顔を上げると、もふもふになったお父さんが枕元にいた。
呼吸に合わせてゆっくり上下するもふもふのおなかを見るうち、わたしの心に、責任感みたいなものが芽生えていた。
とりあえずシャワーを浴びようと、お風呂に向かった。