今日はアルが一番最初にいつもの窓辺にいた。
「アル、なんでギターしてるの??」
アルは私に気づくと手を止める。
“あっ、邪魔??”
「ううん。邪魔じゃない。ただちょっと寄って。」
アルが少し寄ってくれたので横に座る。
「なんでいきなりギター始めてるの?」
“魔法界ではなかなかできなかったからな。”
「なんで?」
“うん?忙しかったから。”
「今も忙しそうにしてるじゃん?」
私はじっとアルを見つめる。
“これは仕事だから。”
「ふ〜ん。わかんないや。」
“ん??”
「仕事だったらできるの??忙しくても。」
“仕事と趣味は分けられる。”
「ふ〜ん。」
私はいつものように外側に足を出す。
「なんか弾いてよ。先生が来るまで聴いてるから。」
私がそう言うと、アルは優しくギターに触れる。
優しい音が誰もいない廊下に響き渡った。
気分が落ち込むたびに
音楽を聴いていた
毎日夜が来るたびに
音楽を聴いていた
それで気分が落ち着いた
でも今日は違ったんだ
気分は落ち込んだまま
あぁそうか、脳が慣れちゃったんだ
薬がだんだん効かなくなるように
もっと強い薬が必要だ
もっと強い精神安定剤が必要だ
気分は落ち込んだまま
この曲は
あなたが好きだといったから
聞いてみたら
頭から離れなくなりました
授業中も
全部
この曲が流れると
あなたのことを考える
もう僕は
依存症になってしまったのだろう
まじか。
でもいいや
好きな人のこと考えるって
すごく嬉しいから
すごく幸せだし
その時だけ
生き返ってる
あなたのパワーって
それだけの力があるんですよ
すごいでしょ?
表紙は茶髪の男の子が踊っている様子が描かれている。
「この子が、僕?」
「うん。これ貸してあげるよ」
「いいの?」
僕はこの本を抱えて店を出た。
家に帰って自分の部屋に入るとベッドにダイブした。そして、『ルンルンBOY』を開いた。
32ページあるこの本を読み進めていく。
僕とそっくりだった。王が来るまでは。王が登場すると憧れにかわった。
5分かけて読み終わると、すぐに感想を伝えたくなった。
だから、もう1度商店街へ駆け出した。
おにいさんは本の整理をしていた。
「読んだ!」
「おっ、早いね。どうだった?」
「面白かった!」
「良かった」
しばらく僕が話していると、言われた。
「君は"ルンルンBOY”だね」
「ラ~ルラ~リル~ラリ~ルルラ~ン~~」
僕はこの商店街が好きだ。八百屋さんや服屋さん、写真屋さん、ケーキ屋さん…。色んなお店が集まって、色んな人がいる。
八百屋のおじちゃんは「これ、持っていき」ってトマトをくれるし、その隣のおばちゃんはお菓子をくれる。
だから僕はこの商店街の真ん中で、踊り歌っているのだ。
「ラ~ルラ~リル~ラリ~ルルラ~ン~~」
今日もそうしていると、声をかけられた。
「君、何をしているの?」
「え?踊ったり歌ったり?」
「へぇ~。元気だね」
「う、うん。…おにいさん、誰?」
「あ、僕はそこの新しくできた本屋の店長だよ。初めまして」
「初めまして」
その人は20代後半くらいで、優しそうだった。
「君、『ルンルンBOY』って知ってる?」
「『ルンルンBOY』?」
「そう。ドイツの絵本なんだけどね、ある町の少年が商店街の真ん中で踊ったり、歌ったりしていたんだ。そしたら、たまたまそこに王が来て、その王に気に入れられてパーティーに招待されたんだ。そのパーティーでパフォーマンスをすると、一気に有名人になった。そういう話」
「それが…?」
「うん。すごく君に似ていたから」
おにいさんは僕を本屋に誘ってその本を見せてくれた。
か弱いわたしは
あなたに甘えます
でもいざというときは
あなたを守ります
そんなものでしょ?
居眠りみたいに死ねたらいいのに
そんな口癖も皮肉になった
天井の目地で明日を占う
行き着く先は幸か不幸か
もう本当はどうだっていいのに
今さら彼奴の事なんか思い出して
変わる季節に期待なんかして
真っ黒な心のカケラ
ガラス瓶の中
1人で消化した
それは気のせい
透明になって
見えないだけ
本当は
もう入りきらない
ねぇ、気づいて。
人よりも頑張っているはずなのに、頑張ってると思っていたかったのに、
自分より劣っていると感じる人に限って自分より多くのものを持っていたりする。
ーこの世は不公平だよな。
楽しいと感じているはずなのに、気が付くと爪を噛んでいる。
今日も愚痴を綴っている。
この世界は嫌いだ、でも死にたくは無い。生き続けてやろうじゃないか。
ーだんだん自分がよく分からなくなってきたけれども。