1人そうこぼすナツィを見つめながら、グレートヒェンは不意に口を開いた。
「…私だってそうよ」
ふと、ナツィはちらっと顔を上げる。
グレートヒェンは気にせず話を続けた。
「人々が私に向けるのは、大抵奇異の目か羨望の目だったわ」
そう呟いたグレートヒェンは、後ろの本棚に寄り掛かる。
そして淡々と語り出した。
「…私の家はね、所謂有名な魔術師の一族じゃなくて、細々と代々魔術師をやっている平民の一家なの」
表向きは人里離れた山の中で、猟師をやって生計を立てている家なんだけどね、とグレートヒェンは付け足す。
「でも魔術師としては比較的優秀な部類らしくて、ついでに一族に伝わる特別な魔術があるから、時折父親が依頼を受けては貴族みたいな身分の高い人達の所へ出掛けていったりしてたわ」
グレートヒェンの話に対して、ナツィはふと質問する。
「…お前はその特別な魔術とやらを知ってるのか?」
グレートヒェンはいいえ、と苦笑した。
「あれは一家の長子にしか教えられないらしいわ…私は2番目だしついでに女だから教えてもらえないみたい」
そう言って、グレートヒェンはナツィに向き直る。
あなたと自然にやりとりが続くだけで、
めちゃくちゃ嬉しいの。
単純だねって笑ってね。
ナツィはあんまり言うんじゃねぇ、と恥ずかしげに呟いた。
「…自分じゃどうしようもないんだし」
そう言ってその場に座り込んだ。
「そんなに気にする事かしら?」
グレートヒェンはそう言って首を傾げる。
「確かに、大抵の使い魔は人工精霊に物質の身体を与えたもので、魔力の供給さえあれば動くから、眠る必要はないし睡魔に襲われることもまずないけど…お前は特殊だものね」
流石は”ヴンダーリッヒ”の傑作品と、グレートヒェンは笑った。
ナツィは少し顔を上げてグレートヒェンを睨みつける。
「人間って皆そういうこと言うよな」
”ヴンダーリッヒ”の最高傑作だの、貴重品だの、とナツィは続ける。
「…本当に面倒臭い」
そう呟いてナツィは膝に顔を埋めた。
「…」
グレートヒェンは暫く足元の使い魔を黙って見つめていたが、不意にこう尋ねた。
「…人間は嫌い?」
「嫌いだよ」
ナツィはすぐさまそう答える。
「ずっとずっと…作ったアイツの手元にいた頃から」
掴めるくらい近くに、
抱きしめられないほど脆く、
君はそこで笑っていた。
なんてね。
夢の中の話。