「とりあえず」
グレートヒェンは身体に付いた雪を払いながら立ち上がる。
「…やるわよ」
そう言って、グレートヒェンはナツィの方を見た。
ナツィは黙ったまま頷くと、また精霊に斬りかかった。
精霊は再度魔力で壁を作り出す。
ナツィはまた魔力障壁に跳ね返されるが、今度はその反動を利用して高く飛び上がった。
目の前にいた敵が突然消えて混乱するような素振りを見せる精霊に、次は別方向から斬撃が襲う。
「あら」
精霊が向いた方には、短剣を持ったグレートヒェンが立っていた。
「私の事を忘れていて?」
グレートヒェンは手に持った短剣で宙に術式を描いた。
術式が完成すると、そこから火球が打ち出された。
もろに攻撃を食らった精霊は、唸り声を上げながらグレートヒェンに飛びかかろうとする。
「させるか‼」
グレートヒェンを襲おうとした精霊に対し、ナツィは上空から鎌を振り下ろした。
精霊はすんでの所で回避する。
年末はかつて、借金の締切でもあったらしい
皆、借金の取り立てや、債務処理で忙しなくなることから川の流れの速い瀬に例えて、年末を年の瀬と言うようになったのだとか、
ならばいっそ今年の僕の罪も今年で時効になってくれればいいのに…
しかし皮肉なことにそう願う僕も年末の忙しなさに振り回されている…
誰かの足音が
私に一人じゃないよって言った
後ろに立っていた北風に会釈して
走ってみようか
両足の靴はバラバラだけど
随分と先を行く春一番に追いつくまで。
「‼︎」
辺りは一面の雪景色だから、雪に埋まっている石にでも躓いたのだろう。
グレートヒェンはそのまま転んでしまった。
「まさかね…」
グレートヒェンはそう呟きながら起き上がり、背後を見た。
後ろからはあの精霊が迫って来る。
「こうなったら一か八か!」
そう言ってグレートヒェンは懐から短剣を取り出した。
丁度その時、目の前に黒い影が飛び込んで来た。
黒い影は雪原に舞い降りながら、手に持つ黒鉄色の鎌を振りかざす。
突然の攻撃を受けた精霊は唸りながら後ずさった。
「お、お前‼︎」
グレートヒェンは黒い影が着地すると共にそう声を上げた。
いつの間にか外套を脱ぎ捨てていたナツィは無言で振り向く。
その背には蝙蝠のような黒い翼が生えていた。
「…何コケてんだよ」
死ぬ気か、とナツィはグレートヒェンに冷ややかな視線を送る。
「仕方ないじゃない」
ここまでは考えてなかったもの、とグレートヒェンは笑う。
ふーん、とナツィは流した。
狼の様な姿をした精霊は、先程斬りかかってきたナツィに近付こうとした。
しかし、ボン!という破裂音に反応して動きを止める。
振り返ると、雪煙の中から赤い髪の少女が現れた。
「さぁ! ここまで来なさいよ精霊!」
グレートヒェンはそう叫んで橙色の石ころを精霊に投げつけた。
石ころは精霊に当たると熱を発し、シューシューと音を立てて煙を上げ始めた。
「ほら!」
こっちへ来なさいと大声で言いながら、グレートヒェンは走り出す。
精霊は1つ雄叫びを上げると、駆けて行く少女の後を追い出した。
グレートヒェンは走りながらも、手元にある石ころを幾つも精霊に投げつけていく。
石には1つ1つ術式が刻まれており、魔力を通す事でそれぞれ効果を発揮する事が出来る。
魔力の塊である精霊にぶつける事で、多少なりとも攻撃を与えたり、動きを鈍らせたりしていた。
このまま最寄りの罠まで誘い込めればこちらの勝ちだ。
あとはナツィがこちらに付いて来れていれば良いんだけど、とグレートヒェンは思う。
とりあえず私が…と心の中で呟きかけた時、グレートヒェンの身体は前へつんのめった。
悲しく無色な夜さえも君の声は彩ってくれて
この距離を恨めしく思ったのは今日で何度目だろう
幻だと言われても否定出来ない電波越し
ひとときの夢をみる
どうにかこうにか自分を立て直し
大丈夫なふりをする
ほしかった言葉はもらえず
自分から取りに行く
温かい言葉を再生したら
痛みが止まらず
どうしろというのだろう
誰か”私”を見つけてくれ