師郎はこちらをちらと見る。
「おや、お前さん気付いていなかったのかい?」
あれ俺が化けてたんだぜ、と師郎は両目を暗緑色に一瞬光らせる。
「そ、そうだったの…」
わたしは思わずポカンとする。
「まぁ、それはそうとして」
師郎はりいらちゃんの顔を覗き込む。
「…とりあえず、事情聴取と行きますかね」
りいらちゃんはひぃぃぃとすくみ上がった。
寿々谷公園の川沿いのエリアにある土手にて。
午後7時を回った所なので、もう花火が打ち上がり始めていた。
「はい、ラムネ」
わたしは土手の斜面に座る小柄なうさ耳パーカーの少女にラムネを手渡した。
少女は黙ってそれを受け取る。
「ねぇ、りいらちゃん」
どうしてあんな事してたの?とわたしは尋ねてみる。
反対から押し寄せる荒波に
私は何をするために生まれてきたのだろうか
ふわりふわりと風がなる
花びらが舞うようなそんな恋で良かった
もっと辛くなる前にその風に押し流されたい
きみがゆく道の横断歩道全部青にしたい
ぼくがとなりにいるときだけ赤にしたい
そっか
好きな人いるだ
僕にも好きな人はいる
それは君だよ
そんなこと言えないだよね
君の好きな人と遊べて楽しかったよね
僕はあんまり嬉しくなったけど
僕は君だけと遊びたい
結局今日両思いってことに僕だけが気づいた
僕は君を諦める
君はその人に告白して付き合っていい人生にしてね
僕は諦める
最後に
僕は君が大好きだったよ、ずっと一緒にいたいと思った
今までありがとう
僕らは 奏でる
そして静かに息をする
孤独も 悲しみも 全部ここに抱いたまま
この肌焼かれる ほどの火を心に灯したまま
僕らは 平等にくる明日に向け手をのばす
「あ、いっすよ。さて、ご存じの通りこのやり口、一人じゃできないくせに部外者もいちゃいけないわけなんですが……協力してくれる方、いませんかね?」
「私たちは当然、参加しますが」
目つきの悪い方が言う。もう一人も力強く頷いている。まさかの同好の士か?
「私もやるー」
トモちゃんも乗ってくれた。
「トム、どうだ?」
弥彦氏に呼びかける。
「……あ、うん、やる」
彼がそう答えた直後、二人組が露骨に嫌そうな顔をしたけど、多分気のせいだよな?
「……俺は興味無い。1時間も席を外してりゃあ足りるか?」
怖い目つきの男性がそう言ってきたので肯定で答える。彼はそのまま出ていってしまった。
「それじゃあ……全部で5人。すぐ準備しますんで、少々お待ちください」
肩掛け鞄から、専用の紙を入れたクリアファイルを取り出す。
「え、何、その紙持ち歩いてんの……」
弥彦氏がやや引いた感じで訊いてくる。
「そりゃ勿論。呼ぶ手段も祓う手段も常に持ち歩くようにはしてんのよ」
「へぇ……」
床に直接用紙を置き、鳥居の絵の上に財布から取り出した10円玉を乗せる。偶然にも昭和44年製のやつだった。これは上手くいきそうだ。
「まあ、準備なんてこれっきりなんで。さ、10円玉に指を置いてください」
俺に続いて、二人組、トモちゃん、弥彦氏、双子が10円玉に指を置く。
「……ん?」
最後に指を置いた二人の方をもう一度見る。弥彦氏や2人組よりも更に幼い、ギリ小学生か中学1年生かってくらいの二人組。男女だけど結構似てるから多分双子。向こうも見返してくる。
「……誰?」
いや、そういえば靴の数と人数がこれまで合ってなかったな。こいつらが残りの二人か。
人は決して完璧なんかじゃない
誰かにとっての正しいことが
誰かにとっては間違いかもしれない
罪を犯してでも守らなきゃならない時だってある
だからいつもこの言葉を胸に刻むんだ。
「罪は消せない、背負って生きていくしかないんだ、
たとえ孤独でも、命ある限り戦う」
それがヒーローだから
いつか届かなかったこの手を今度こそ届かせるために
涙を隠して今日も…
「変身!」