「さっさとソイツを返してもらえるかしら」
青髪のコドモはそう言って女に近付く。
「ぐ…」
女は思わず後ずさる。
…と、ここで部屋の入り口からメガネの人物が覗き込んだ。
「あれ?」
アンタ…とメガネの女は呟く。
「昼に会った…」
宝条 すみれ?とメガネの女は続ける。
女は何よと答えた。
「あれ、寧依、知り合い?」
キヲンはメガネの女と部屋の中の女を交互に見る。
「…まぁ、ちょっとね」
寧依と呼ばれた女はそう言ってうなずく。
「あなたの差し金なの?」
万 寧依、とすみれは聞く。
「や、いかろ姐さん」
とある夕暮れ時、薄暗い路地裏にて声を掛けられ、その女性は振り返った。
「あらルナちゃん。学校の帰り?」
『いかろ姐さん』と呼びかけられたその女性は、よく見知った少女の姿を見とめ、視線を合わせるように腰を曲げながら答えた。
「そそ。ところで私、お腹空いちゃってまして……いつもの、お願いできます?」
鋭い牙を口から覗かせてニタリと笑う月に対し、いかろもとい伽はしばし考え込んでから答えた。
「……指揮者さま直々のお願いですし、まあ良いでしょう。不肖ながらこの”霊能者”伽、特別割引でお受けいたしましょう」
「わーい。今おサイフに300円しか持ってないんだけど、それで良い?」
「いえ、お金を戴くなんてとんでもない。ただ、こちらのお仕事を少しばかり手伝っていただければ……」
「あー……まあ軽いオヤツをはさむのもアリかな。おっけおっけ」
月の返答に頷き、それから伽は数秒黙り込んだ。瞑目し、集中力を高めるように深呼吸を繰り返し、不意にかっと目を見開く。それと同時に彼女の目の前に、どこから現れたのか黒く禍々しい靄のようなものが集まり、やがて人間を模した形状に安定していった。
『ヤァ、ドウシタイオ姉サン。手デモ借リタイノカイ?』
その人型は楽しそうに、ガサガサとした気味の悪い声で問いかけた。
輝く 伝説の龍神にかわればそのとき
伝えたい想い 遠く海を超えて あなたの胸に届くと
再び巡り逢えると 信じていた あのときの運命になると