「あなた、満州って知ってるでしょ?」
「知っている」
「あの人、歩兵の一等兵として満州に行ってたのよ。南支の方。そこでね、死んじゃったの」
「戦死してしまったと聞いている」
「そうよ。あの人、転進中に自分の中隊を見失って班の人、先達さんというんだけどね、その人と二人で迷子になってたの。頭悪いわよねぇ」
「……」少年は何を思えばいいか分からなくなって沈黙した。
「それで二人で南下した中隊を探しているときに、八路軍に遭遇して応戦中に被弾したって。右腕の、上の方に一発と、おなかに一発——。邦明さんたら、おっちょこちょいなのは分かるけど、本当に、出征したならちゃんとしてくれないと。でも先達さんを助けて死んだって。先達さんも兵站病院を見つけて駆け込んだらしいのだけど、翌日には……。蒸し暑くって雨が降っていて、あの頃は、前線じゃ病院は酷い環境なのよ。まともに休めやしない。外にいた方がましだったくらいらしくてね……沢山苦しんだでしょうね……あの人はもっと幸せになるべきだったのに」
祖母は冷静に振舞っているが、何かへの深い憎悪がその目からは感じられた。しかしその『何か』とは、鉄のように凝固しているのに掴みどころがなく、憎悪を持て余した虚しさに駆られているようでもあった。
同時に、話を聞いて、あの頃梅雨の雨の日にだけ姿を現さなかった理由が分かった。あの時現れなかったのは、梅雨が嫌いだったからというより、怖かったからだったのだろう。
当然自分はまだ死んだことがないので、どれほど恐怖を感じていたのかは計り知れない。どんなに彼が痛くて辛くて死にたくなくて逃げ出したくて、しかし逃げ場がないという絶望の淵に居たとしても、あの時の少年には知る由もなかった。今だってどうやっても分からない。彼からすれば『分かる』など無責任な言葉で一蹴されるよりは良いのかもしれないが、少年はどうにも解消しようがない後悔の念にさいなまれた。
1
いつからだろう 君を好きになったのは
君を見る度に 気になっていった僕の心は
今はもう耐えられないほどに膨れ上がっている
休み時間に本を読む君 授業中に居眠りをする君
全て愛おしく感じてしまうんだ
こんな気持ちを無碍にしては ダメだと僕の心が言う
いつか君に伝えられるようになるまで
誰にも言うことは無いだろう
2
いつからだろう 君を避けるようになったのは
目が合うと直ぐに 逸らしてしまう僕の心は
今はもう自分でもどうなっているのかさえ解らない
トモダチと仲良く話す君 楽しそうに授業を受ける君
全て遠ざけてしまっているんだ
こんな気持ちのまま生きるなら いっそのこと死んでしまいたい
これから僕は何をすべきなのか 分からなくて胸が痛む
3
きっと僕は君を傷つけるのが怖くて避けている
ならこの気持ちをどうすればいい
もし君に好きな人が出来て 誰かのものになってしまうのならば
いっその事僕が連れ去ってしまおうか
今スタートラインで声上げて 君にこの気持ちを伝えるよ
君の言葉がどうであれ そこに悔いはない