人々の想いや願いが星に積もっていって
そうしてだんだん重くなって
流れ星になって 空から降ってくるんだよ
月は微笑みながらそう言いました
STI側から提供された情報によると、今回襲撃してきたカゲ達は、小型のものがほとんどだと言う。
小型とは言え街を侵蝕することに変わりないのだから、早く倒さなければならない。
それでも出撃スパークラーの数から考えてみれば、あっという間に駆逐することは可能だろう。
そう考えながら水晶は刀型P.A.で次々とカゲに斬りかかる。
街を侵蝕しようとしていたカゲ達は避ける間もなく霧散していった。
「みあきちー!」
ふと呼ばれて振り向くと、弩型P.A.を携えた少女…紀奈が駆け寄ってきた。
「どう、調子は?」
「まぁまぁかな」
水晶は刀型P.A.で飛びかかるカゲを切り裂きながら言う。
「あたしもだよ!」
紀奈もまた、飛行型カゲを自身の武器で仕留めながら答える。
「今回は小型種がほとんどって聞いてたけど…」
この辺りはそんなにいないみたい、と水晶は呟く。
「うーん、じゃあここを片付けたら巴達の所へ行こっか」
巴達がいる所の方が大変みたいだし、と紀奈は笑う。
水晶は静かに頷いた。
…と、ここで耳に装着している通信機から聞き覚えのある声が聞こえた。
『加賀屋さん、聞こえる⁈』
「どうしたの呑海さん」
水晶は通信機に手を当てて答える。
『さっき大型種が出現したって情報が入ったわ』
方角は…と巴が言いかけた所で、紀奈が遮るように叫んだ。
「みあきち後ろ‼︎」
はっと振り向くと、そこには5メートルはある動く塔のようなカゲが光線を放とうとしていた。
地球が記録した心電図みたいな波打ち際を
君は走り抜けていく
いっぱい生きろ
息をあらげて
心臓を鳴らして
君が放つ全ての音も
光も 海も この惑星も
総ては波形で
それは つまり 命だ
「2人とも、いけるな?」
出撃準備室に校長もとい澁谷分隊長の声が響く。
「俺はもちろんいけるよ、まぁ遅刻女はどうか知らないけど」
「うるさいなぁ、ライブだったんだってば!」
世にいう学生男女のノリだ、何故か男女というのはイジり合うことでしかコミユニケーションを取れない。しかしこんな学生に頼らなければならないというのもまたこの地球の不思議な現実だ。
【本部システム、作戦第2フェーズへの切り替え完了しました】
通信越しに聞こえる本部隊員の報告が聞こえる。
「了解。という訳だ、2人とも出撃準備だ」
その言葉を受け2人は目つきを変え、目を合わせ、タイミングを合わせて首に提げたチップのスイッチを入れる。
『解放』
このチップはSTIの学生証であると同時にスパークラーの光の力を制御するものだ。スイッチを入れるとその光の力が解放される。
2人はチップのついたそのネックレスを外し、チップを用意されたP.A.に挿入する。するとP.A.にある画面に
[AA0X02 Log in] [AA0X03 Log in]
とそれぞれ表示され、
一方は日本刀程もある刀身の刀型、
もう一方は苦無(くない)型
に形を変える。
【AA0X02、AA0X03、2名のログイン確認しました。ルート2.3番開放します】
通信の音が聞こえるが、2人は反応1つせず、変形したP.A.を素振りしている。
『AA0X02 五代ジョー、AA0X03 高田美空、両名出撃準備完了。出撃ルート確認しました』
訓練の時間に言い慣れているため、口を揃えるのは自然とできる。
【了解。出口2.3番開放します!】
「頼んだぞ2人とも」
2人に聞こえるかギリギリの音量で呟く。
「行くぞ」「行こっか」
2人も互いの目を見て合図する。
『出撃!』
遡ること数十秒、空中移動中、ふと地面を見下ろした初音は、地上を埋め尽くすカゲたちの中に不自然に空いた隙間を発見した。
(何だろ、あそこ……)
目を凝らし、その正体に気付くのとほぼ同時に、初音は灯の肩から手を放し、そこ目掛けて飛び降りていた。
カゲたちをクッションにして着地し、それらを順番に斬り倒しながら突き進み、遂に初音は小さな空白の正体に辿り着いた。
ビビッドカラーの迷彩模様に彩られた、金属製の折り畳み防楯。ひょいと跳び越えて内側に入ると、まだ幼さの残る少女が必死で押さえていた。
「ねえ」
「! え、誰、何⁉」
「ごめん、私は門見初音。あなたと同じ輝士だよ」
「わ、私は田代小春。逃げ遅れたんだけど、私のP.A.がこの楯で良かった……」
「ある程度は斬っておいたから大丈夫。それより小春ちゃん、突然で悪いんだけど、ちょっとついて来てくれる?」
「え、うん、はい」
小春が防楯を畳んでいる間、初音がカゲたちを牽制する。
「はい、準備できました!」
その声に初音が目を向けると、小春は防楯を折りたたんで、背中に背負っていた。
「うん」
通話アプリを起動し、真理奈と灯の通話に参加する。
『あの子なら大丈夫、途中で自分から離れてたから』
『大丈夫じゃねえ……』
『誰か生存者でも見つけたのかも』
自分が勝手に離れたことについて話しているのだろう。そう考え、初音は声をかけた。
「ごめん、勝手に離れて」
『うわあ⁉』
突然の大声に耳を押さえながらも、状況を伝えようとして電話口から灯の声が聞こえてきた。
『うわやっべ引き寄せちゃった』
(……今の大声でカゲを呼び寄せちゃったのかな)
「ちょっと待ってて、援軍連れて行く」
『あー?』
電話を耳から離し、小春の方に振り返る。小春はカゲたちから逃げるように背後のブロック塀の上に避難していた。
「ちょうど良いや小春ちゃん、ついて来て。私の仲間が危なそう」
「あ、りょーかいです」
ブロック塀から屋根の上によじ登り、2人はヌシのいる方角に向けて駆け出した。
STI校内、そして防災庁特定特殊生物対策班の施設内に警報が鳴り響き、対策本部は警報と共に電源が入る。
「東鏡都瀬田谷区に大型デネブリスの出現を確認。政府より緊急事態宣言発令に伴うプラン11要求!」
「了解。瀬田谷区全域の河川及び公道にフォトンウォール展開、住民避難を開始します。」
「陸自班、空挺班は東鏡I.Cを中心に第1種戦闘配置!」
指示を出す澁谷分隊長は私たちの通う東鏡第1分校澁谷校の校長でもある鳴海晃司。かつてスパークラーとして第1線で活躍したエースだった男だ。今もその戦術眼は衰えることを知らない。
【空挺班より報告します。目標は現在双子田万川駅周辺を侵攻中。幸い侵食は国道246号線、都道11号線に囲まれた範囲内で抑えられています】
「その範囲なら住民避難完了しています」
通信と本部隊員の声が次々に飛び交う。
【澁谷分隊、全隊員配置完了。目標捕捉しました。】
「了解。総員、飽和攻撃体勢に移れ!」
隊長はその全てを聞き逃すことなく、的確な指示を出す。
【『了解』】
【空挺班、攻撃準備完了。いつでも打てます】
【同じく陸自班、いつでも打てます】
「GPS誘導弾発射準備完了。いつでも打てます」
さすがに特殊自衛隊。行動は迅速で乱れがない。
「住民避難完了のため、政府の承認は省略。飽和攻撃開始。打てぃ!」
隊長のその合図で発射、着弾の轟音が鳴り響く。
先程まで見えていたモニターはその爆撃の衝撃のためか、それを防ぐためか映像が途切れている。
その轟音は数秒間続き、その間も本部は忙しなく誰かしらが動いているが音は掻き消される。
その中で隊長は何か言伝を受け、少し口角が上がる。
「飽和攻撃終了。モニター、復旧します」
そのモニターに映ったのは爆発によって先程までとは少し形状が変化したデネブリスの姿があった。しかし本部の面々に動揺する様子はなかった。
「実弾、光弾共に全弾命中。目標のコアに損傷、認められません」
「結構。第2フェーズ移行への時間は稼げた」
そう言うと通信をアナウンスに切り替える。
「全隊員に告ぐ、これより作戦を第2フェーズに移行する。総員、配置に着け!」
隊長は再び通信をSTI校内の出撃準備室に切り替え、問いかける。
「2人とも、いけるな?」