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鏡界輝譚スパークラー:陰鬱プロフェッサー その①

「やァ、今日も来たね、親友」
いつも通りノックも無しに自室に入ってきたその青年、三色吉代(みいろ・よしろ)に目も向けず、モニターに向かってキーボードを叩きながら村崎明晶(むらさき・あきら)は親し気に話しかけた。
「ああ。しかしこの小屋、そろそろ限界なんじゃないか? 周りのカゲの数やばかったぞ」
「ははは、つまり『カゲ除け』は上手く動いていてくれてるわけだ。君のお陰だね」
「あとプロフ」
「『プロフェッサー・アメシスト』ね。変な略し方しないでよ。……で、何だい親友」
「実験台に親し気な呼び方して警戒心解こうと思ってるなら無駄だぞ。俺はもうあんたにすっかり慣れちまってるんだからな」
「ははは、すっかり癖になっててね。……けど、ワタシは本当に君のこと、親友だと思ってるんだよ? だってさ」
そこで一瞬言葉を切り、自分の座ったキャスター付きの椅子をずらし、監視カメラの映像が映ったモニターを吉代に見せるようにしながら言葉を続ける。
「この村が『こんなこと』になっちゃってから、ずっと一緒に戦ってくれてる唯一の戦友なんだから」
モニターの中には、村中のあらゆる場所を埋め尽くす無数のカゲと、9割方カゲに飲まれ、廃村とすら呼べない有様の『村だったもの』が映されていた。

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鏡界輝譚スパークラー Crystal Brother and Sister Ⅵ

「て言うか、みあきちのお兄さんてこの人だったんだ」
紀奈がそう言うと、水晶は出撃前に言った気がする、と呆れたように言った。
「…それにしても」
どうしてここが分かったの?と水晶は石英に尋ねる。
「え、あぁ」
水晶が出撃したって聞いて、スパークラーが個々に持たされる発信機の信号を頼りにここまで来たんだ、と石英は説明する。
「でもまさか大型種がそこにいたなんて…」
石英はカゲを見上げながら呟く。
大きなカゲはゆらゆらと交差点を通り過ぎていった。
「…これくらいなら、みんなで倒せるか」
石英がそう言うと、紀奈はえ、と驚く。
「こんなデカいの、倒せるんですか⁈」
「そりゃあもちろん」
ぼく達澁谷學苑のスパークラーはこんなのとばっかり戦ってるよ、と石英は笑う。
「東鏡は激戦区だもの」
あのレベルを倒すのは日常茶飯事、と水晶は呟く。
「やっぱ名門すげー」
紀奈はそうこぼすしかなかった。
「とりあえず、ぼくの部隊のメンバーをここに呼ぶよ」
水晶達は下がってて、と石英は優しく言う。
「ここはぼく達が…」
「いいえ、わたし達も戦います」
石英の言葉を遮るように、水晶は毅然とした態度で言った。
「どうして…」
「兄さん達の部隊は全員揃っていないでしょう?」
交流会の準備に訪れているのは兄さん含めて5人のはず、と水晶は続ける。
「わたし達の部隊が援護します」
その様子を石英は驚いた顔で見ていたが、すぐに優しい顔に戻った。
「分かった、援護、任せたよ」
石英は水晶の肩を叩いた。

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野良輝士市街奪還戦 その⑥

「え、誰」
見知らぬスパークラーに戸惑う宗司。
「初めまして、田代小春です! そこの初音さんに助けていただき、皆さんの助太刀に来ました!」
「あ、うん。……ごめん初音って誰?」
「あんたらの言うかどみーちゃんのことだよ」
一歩遅れて追いついてきた初音につっこまれ、宗司は思い出したように手を打った。
「もしもし真理奈? こっち見えてる?」
『うん、スコープで見てるよー。その子が援軍?』
初音の通話に、銃声混じりに真理奈が通話に答えた。
「そう、小春ちゃん」
『楯使いかー、防御力の高い子はうちにいなかったから助かるね。こっちのカゲの勢いもちょっと落ち着いてきたし、もうちょっと援護射撃に回れそ……あごめんやっぱ無理』
銃声が更に3発鳴り響き、真理奈の声が途切れた。
「ごめんかどみー? 早くこっち手伝ってくれるか?」
「ん、ごめん。おいで小春ちゃん」
宗司の声に振り向き、小春に手招きして宗司の横に並んで地面を見下ろす。
「走り回りたいから足元を広げたいんだ」
「あ、それだったら多分、私役に立てますよ」
小春が手を挙げながら言う。
「マジか。よっしゃ行くぞ」
「了解しました。ついて来てください」
小春が防楯を広げて地面に向け、その体勢のまま勢い良く飛び降りた。

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音の中で言葉は産まれる

イヤホンを外して飛び込む音は
自分じゃない誰かの言葉と無機質な効果音
世界ってこんなに耳障りだったっけ?

扉の開くエアーの音。
ルールを犯す無慈悲な足音。
誰かが誰かを笑う声。
小さな抵抗を掻き消す電車のモーター。

音が言葉を作り、また音が言葉を消す。

耳を塞いで聞いてみる。
自分の中にある言葉を

自分の言葉が掻き消されないように
自分で自分の言葉を聞くんだ。

自分の耳だけは自分の声を全部受け取る。
誰かにとって耳障りじゃないか
誰かの言葉を描き消してないか

誰かを守るために
自分の中の好きな言葉を守る