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寂しがり屋

ハッピーエンドなんていらない
別れくらい避けられる
終わりだって蹴飛ばしてやる

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幺妖造物茶会 Act 7

「えー何でー」
ナツィと一緒がいい〜とキヲンはその場でじたばたする。
「…」
ナツィはその様子を見ても無視していたが、やがて諦めたようにうなだれた。
「…仕方ない」
お前に付いてく、とナツィはキヲンに目を向ける。
「ほんと⁈」
キヲンはテーブルに身を乗り出して聞く。
「一応な」
「やったー!」
ナツィの返答を聞いて、キヲンはその場で小躍りした。
ナツィは呆れたように溜め息をついた。

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輝ける新しい時代の君へ ⅩⅩⅣ

『こんにちは。此を読んでいるといふことは、先達くんは帰つてきたんですね。彼は若いから、きつと届けると確信していました……雪子、その後お元気でせうか。私は今日も大変元気です。
 この後直ぐに戦地へ向かふ為走り書きたること、生きて帰ると御約束しましたが其れが出来ぬこと、お許し下さい。
 必要

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×××××中学校の七不思議 甲斐田正秀 7

「わしはな、高等小学校2年の時分にここで死んだ。酷い死に方……確かにそうだったかも知れん。1944年の8月にあった空襲だ。わしはそんとき、兄ちゃんが海軍に志願して出てった後じゃったけ、家じゃ妹弟がギャーギャーうるさくって世話もせにゃいけんかったからのう、学校に残って考査の勉強しとった。そんとき……5時50分くらいじゃろか、空襲警報が鳴った。ありゃ気味悪い音でもう、忘れたくても忘れられん、何回何十回も聞いた酷い不協和音じゃ。今でもたまに鳴り出すぞ、頭ン中でな。当然それを聞いた途端にわしは荷物持って急いで教室から逃げ出して、防空壕に潜り込んだ。学校の防空壕ってのはな、不思議でどこからか人が湧いて出て、たくさん入っとる。もうすし詰め状態よ。それでも何とか入れたから、ボーイングが去るまでじっと待ってようと壕の入口付近でしゃがんでいた。そんとき、わしは重大なことに気付いた。本を1冊、置いてきたんじゃ。今思うと下らない。じゃがそんときは死活問題じゃった。命あっての物種というが、もう1冊買う金もないし、それがなければ技師を諦めなくてはいけないという焦りがあった。もうその考えで頭がいっぱいだった」
「技師?」
「ああ、わしはちっこい頃から飛行機の技師になりたくてのう。そんでわがまま言って母ちゃんに高等小学校に入れさせてもらったんじゃよ。兄ちゃんが海軍の戦闘機乗りで、それを安全に整備して、空の勇士たちが無事に帰ってこられるような戦闘機に乗せたかったんじゃ。後方で働けば殉死はできんが、せめて、兄ちゃんらに正しい戦死を遂げてほしかったんじゃ」
 正しい死。
 何だかもやっとした。
 正しい死なんてあるのか?実兄に死を望むか?本当の望みは正しい戦死なんてものではなくて、帰還ではないのか?
 俺の中に湧いた感情は確実に同情や悲観ではなかった。多分、多分だけど、軽蔑だ。何に対してかは分からない。目の前にいる小さくて痩せた少年の話を止めてやるべきだと思ったが、そのための理由付けもできないから、口をつぐんだまま甲斐田の話を聞くしかない。

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憧憬に泣く 9

 理想と現実の落差に戸惑う善。
 かつての自分のように大切な人を亡くした善。
 それでも現実と向き合うことを選んだ善。
 どうしても、そんな彼のことが尊いものに思えて仕方がなかった。STIは彼のような若人を失ってはいけないと思った。
 善の手が部隊長の胸元からはらりと落ちた。それも、一つの雫とともに。全身から力が抜け、その場に座り込んだ。
 涙は次々頬を伝い落ちてくる。それを必死に止めようと掌で拭うも嗚咽が漏れてくる。
「うっ……うっ……駄目だっ、駄目だっ……」
 善は嗚咽の間に歯を食いしばりながらぼそぼそ呟く。
「なあにが駄目なんだよ」
 部隊長は冗談めいて言った。
 十秒程度の嗚咽の後、善はかろうじてか細く声を漏らした。
「……泣いちゃっ、駄目なんだ……」
 ――和樹はあの瞬間、泣けないまま死んだのに。自分だけ泣くなんて。
 そう思うと情けなくて、切なくて、和樹に失礼な気がして、今まで一度も泣けなかった。泣きたくなかった。しかし今は涙が止まらない。
 部隊長は頑固な少年の不十分な回答に思わず苦笑した。
「別に泣けるときに泣いときゃ良いだろーが。こんなことでもねえと、スパークラーはおちおち泣いてもいらんねぇからな」
 部隊長はカラッと気持ちよく笑った。
 その言葉に、善は幼い子供のように声を上げて泣いた。
 善は一歩、前に進むことができた。