「なんだよそれ…」
ナツィはそう言って呆れる。
「まぁいいじゃないの」
賑やかな方が楽しいわ、とピスケスは手を叩いた。
「ボクも皆がいてくれて嬉しい!」
精霊の幼生を抱えたキヲンは楽しそうに飛び跳ねる。
「…」
ナツィは溜め息をつく。
「とりあえず行くぞ」
とにかくソイツを拾った場所まで案内してくれ、とナツィはキヲンを促す。
「分かったー」
キヲンはそう言って歩き出す。
残りの皆もそれに続いた。
「でな、実際ここいらにアメリカが爆弾を落とすことは殆どなかった。じゃから今回もそのクチだろうと思って油断しとったんじゃな。でもボーイングは確実に近づいていた。警報は依然やまない。もしかしたら今回は、と、ちと怖くはあったが、本を取りにこの教室に戻った。どうせ今日に限って落としてくることなかろうし、落ちても学校にピンポイントで当たるまいとたかを括っとった。それに何より、アメリカの兵器を前に、勉強すら諦めるのが嫌じゃった……そう思ったのが間違いじゃった。よう考えれば、学校がここいらで1番大きい建物じゃったし、軍の駐屯地は隠れとったから学校が狙われるに決まっとったんじゃが、そういう可能性はもっぱら排除して考えんかった。とにかく本を取りに行きたくてしょうがなかった。それで急いで3階まで駆け上がって、丁度、わしが机の上にあった本を手に取ったとき、この教室に焼夷弾がヒューッと落ちてきた。お前は見たことないじゃろう、まああっちゃ困るが、ありゃ考えた奴は本当の非道だったろうなあ。木造の日本家屋が燃えやすいように、火薬だけじゃなく油を入れるんじゃ。だから爆風と一緒に燃えた油が飛んできた。あん頃は校舎も全部木だったからのう、すぐに一面焼けた。もう遅い時間じゃったからな、わし以外には生徒はおらんかったから良かったと思うが、安心したのも束の間のことで、すぐにも第二陣が降ってくる音がする。でも火に囲まれて逃げられんし……背水の陣、四面楚歌、そんな様子じゃ。熱いを通り越して、皮膚がジリジリ唸るように痛んだ。自分は死ぬんじゃと確信した。わしは元々卒業したら早々に海軍に志願しようと思っとったから、もちろん死ぬ覚悟もできていた……と、思っとった。死ぬときになってわかったが、わしは本当は死にとうなかったんじゃ。まだ生きたい。そう思ったとき、2発目が落ちて、わしは割れた硝子や机と一緒に、そっちの方……」
そう言いながら俺、ではなく、その後ろ――黒板を指さした。
現在、あの少年は25歳になり、鏡都府某所のSTIで教員として働いている。
彼はあの一件の後も決して失うことに慣れることはなかった。何度も悲しみ、何度も涙した。それでも折れなかった。
彼にはその信念があった。
負けてはいけない。感情を殺してはいけない。
それが強さであり、守ることであった。
自分の信念を貫き守ってきた彼は今、それをかつての彼のような未熟な少年少女たちに伝えている。スパークラーとしての任務を終えた今、その青年は次世代のスパークラー達に強さを、そして人を守ることを教えている。
終