「チョウフウ、だっけか…面倒な敵が増えちまったよ」
なぁ?と師郎は隣に座る黎に目を向ける。
黎は黙ってそっぽを向いた。
「何だよ、チョウフウと同じ学校なのを気にしているのかい?」
お~い~と師郎が黎を右肘で小突くと、黎はちょっと師郎から離れた。
「…別に、同じ学校ってだけで学年違うし」
あんまり自分は奴の事知らない、と黎は棒の付いたアメをくわえる。
「ただ、部活で使っている所が近いってだ…」
黎がそう言いかけた時、不意にあと聞き覚えのある声が飛んできた。
わたし達がパッと声の主の方を見ると、カラフルなピンで前髪を留めた少女と、メガネをかけた長髪の少女が近付いてきた。
「あ、アンタら!」
ネロは2人に気付くとバッと立ち上がり、目を光らせる。
その様子を見た短髪の少女はあーもう殺気立たないの~と笑みを浮かべる。
「また会ったね、あんた達」
短髪の少女はそう言って手を小さく振る。
しかしその後ろにいる長髪の少女がムスッとした顔をしていた。
「一体何の用だ」
目を光らせるのをやめたネロは2人を睨みつける。
短髪の少女はいや~ちょっとね、と笑う。
「……もうこんな時間か」
タマモの独り言に壁掛け時計を見ると、15時過ぎだった。
「なァ、ロキ。暗くなる前にチュートリアルといかねェか?」
「良いね。インキ弾の使い方、私も練習してみたいし。エベルソルってどこに出てるか分かる?」
「いや分からん。たまにお偉いさんから『どこそこに行け』って言われることもあるけど、今は特に何も無いからな。適当に怪しいポイントをぶらついて、遭遇出来たらブチのめすって感じだな」
「なるほどー。私、化け物と戦った事なんて無いんだけど……」
「誰だって最初はそうだよ。俺だってまだ両手の指に足りる程しか戦った事無ェもん」
「それもそっか」
「そうだよ」
タマモが椅子から立ち上がった。私も席を立つ。
「……じゃ、行くか」
「うん」
彼について歩き、フォールム本部を出る。彼は市街地に向けてのんびりとした足取りで歩いていた。
「……なァ、ロキ。どっか行きたい場所無ェか?」
「んー……あんまり強くないエベルソルがいるところ?」
「お前大分贅沢な注文するなァ……」
苦笑しながらも、タマモは迷いなく商店街に入っていった。そのどこかに用事があるのかとも思ったけど、特にそういうことも無かったみたい。青果店で果物の並ぶ棚をじっと見ていたくらいで、結局通り抜けてしまった。
「……最近は何でも高くて良くねェ。果物なんか簡単に買えないモンだから、ビタミン摂るのが面倒だぜ」
「野菜ジュースとかオススメだよ」
「あれ、あんま好きじゃねェんだよなー」
「ふーん」
犬神ちゃんに手を引かれ、出店が並ぶ通りを進む。空いている彼女の手には先ほど買った吹き戻しが、自分の方は彼女に言われて仕方なく買った魔除けの熊手が握られている。
「犬神ちゃん、待って、速い」
「速くない!」
「いや速いって……」
「キノコちゃんなら3倍速で歩いても平気だもん!」
「あの人を常人の比較対象にしちゃいけない」
しばしの抵抗の末、ようやく犬神ちゃんは歩調を緩めてくれた。
「……けど、キノコちゃん居ないね」
犬神ちゃんが寂しそうに呟く。
「別の場所にいるのかもしれない。舞殿や本殿の方はまだ探してないわけだし」
一度スマホの時計を確認する。もうすぐ神楽の時間だ。
「……うん、そうだね。きっといるよね。一言文句を言ってやらなきゃだし、早く行こ!」
元気を取り戻したのか、犬神ちゃんは再び早足で歩きだした。