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鉄路の魔女:夢破れてなんちゃら その③

「あっ」
体表に僅かに残っていた機械装甲も地面に落ち、黒色の醜い全体像が露わになる。
肩から4本に枝分かれした中央の腕は人骨のそれのような構造、その周囲を囲むように昆虫の肢のようなもの、皮膜の無い蝙蝠の前足のようなもの、更に枝分かれする頭足類の触腕のようなものが生えている。
「うぅんこれは……良くない。人に見られたら怖がられちゃうな。さっさと終わらせなくちゃ」
再び突進してくる幻影を、蝙蝠型の腕で受け止める。先端の4本の鉤爪が幻影自身の勢いもあって深々と突き刺さり、幻影は痛みに苦しむように大きく身体を反らせ震えた。
「そいっ」
射撃を合わせ、爆発で更に態勢を崩し、ひっくり返す。
「……ほらほら、駄目だよ、君。『公共の場』で暴れるのはいけないことなんだから」
鈴蘭の言葉に、幻影は水まんじゅうのような身体を小刻みに震わせる。
「だから駄目なんだって。こら、だーめ。そんなに暴れたいなら、まずは人のいない所に行かなくちゃなんだよ」
グレネードランチャーの銃口で幻影をつつきながら、鈴蘭が説教を続けていると、彼女らのいる場所をバスが通過していった。
「………………ほら。ここはバスが通るんだから、びっくりされちゃうよ」
触腕を絡め、昆虫腕と蝙蝠腕を突き刺し、骨腕で表面を掴んで幻影を引きずり歩き始める。
「まずはここからいなくなろうね。マナーってものがあるんだから」

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鉄道回想

ガタンゴトン、ガタンゴトン...

列車の音は聞くだけで少しわくわくする。
幼い自分にとって、この音は、
「冒険」
を意味していた。
今でも少しわくわくする。
この音は、幼い日の自分の
「冒険の心音」
だったのだ、と、今でも思う。
多分この先も、列車が存在してくれる限り、
僕の冒険は終わらない。

冒険の途中で出会った少女は、この話を聞いて、
そうかもね、
と、山吹色のリボンを揺らした。

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花街辻斬り 1

頭が痛い。
身体がとんでもなく重たい。
傷は右腰と左肩。
左肩は脇差が刺さったままなのが唯一の救いだ。
しかし、右足、左腕はもう使い物にならない。
ああ、このままここで死ぬのか。

「お主、ここで何をしていんすか。」

不意に、誰かが顔を覗き込んだ。
化粧をした女の顔をみたところで、ぷつりと意識が途切れた。

(...生きてる...?)

次に目覚めたのは、見慣れない座敷だった。

「おや、起きたでありんすか。」

耳慣れない言葉に振り向くと、隣には遊女が煙管を片手に座っていた。

「誰...?」
「わっちは縁野紅(えんのくれ)。昨夜、ここの廓の辺りで倒れていたお主を、わっちが拾いんした。」

どうやら、刺されて彷徨っていたら、花街の辺りまできてしまったらしい。

「...助けてくれてありがとう。でも、もう行かなきゃ。」
「どこへ?」

眉を釣り上げ、若干食い気味に聞いてくる遊女こと紅さん。

「お義父さんのところ...」

と言ってから、少し紅さんを見る。
紅さんは一瞬目を細め、ゆっくりと告げた。

「あの男なら、もういんせん。」
「!...死んだの...?」
「さぁ。生きていても、恐らく当分、花街の辺りにはきんせん。」

そして、紅さんは続けた。

「何故、そんなに帰ろうとしんすか。」

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トリックスターの慟哭

リリアーナは、輝かしい。
太陽のように明るくて。誰よりも飄々として。死地にだって平気で乗り込んで。
皆の、憧れ。

_私だって、リリアーナが好き。

だからやめられない。
皆を騙していることが嫌だけど、『リリアーナ』という人格を捨てられない。
『リリィ』と『リリアーナ』の差に、吐いてしまうくらい悩むのに、それでも捨てられない。
きっと、『リリアーナ』が好きだからというだけじゃないんだろうけど。

でも、『リリアーナ』だけじゃなくて『リリィ』のことも見てほしい。
「本当の自分でいて良い」だなんて、知ったような口を聞かないでほしい。
_私はとても、面倒くさい。