「ねぇナツィ」
フューシャたちと戦い終えてすぐ、大通りに出た人工精霊たちはそのまま駅に向かって歩いている。
そんな中、かすみは外套の頭巾を被って黙ったままのナツィにポツリと話しかけた。
「どうして1人で飛び出して行っちゃったの?」
あの子たちはその内“学会”がなんとかするって言ってたのにとかすみはナツィの顔を覗き込む。
しかしナツィは外套の頭巾を目深に被ったまま沈黙していた。
「…ナツィ」
かすみは再度呼びかけるが、ナツィは無視する。
かすみは歩きながら前を見る。
「…もしかして、“あの人”に危害を加えようとしてたから?」
その言葉に、ナツィはぴたと足を止める。
やっぱり、とかすみは立ち止まって微笑む。
「“あの人”のこと、大好きなんだね」
「⁈」
ナツィは驚いたように飛び跳ねる。
かすみはふふと笑って続ける。
(カオル)
武者霊と打ち合いながら、青葉は自身に宿る霊体に心中で呼びかける。
(どうしたの、ワタシの可愛い青葉?)
(ちょっと作戦を思いついたんだけど。防御は捨ててあの子に直接突っ込む。霊障はカオルが吸ってくれるんでしょ?)
(ふーむ……あまりおすすめは……あ)
(何?)
(……いや、ワタシの可愛い青葉が傷つくのは……)
(五体が残るなら多少の怪我は気にしないから。勝てる方法、教えて)
(それじゃあ…………)
カオルの言葉に従い、仕込み杖〈煌炎〉の持ち手近くを握る。軽く捻るようにしながら力を込め、内部に仕込まれていた刀身を一気に引き抜いた。
「……おいクソ雑魚。何なの、それ?」
少女が強く睨みながら、青葉に問う。
40㎝にも満たない短い刀身は、夜闇の中であっても奇妙な金属質の輝きを見せ、霊感に干渉する不気味な雰囲気を纏っていた。
「その気持ち悪い刀で……何するつもりだ!」
「……お前に勝つ」
短く言い放ち、青葉は駆け出した。2体の悪霊が少女との間に立ち塞がるが、青葉が回転しながらその隙間をすり抜けると、無数の刀傷を受けその場に崩れ落ちた。
「なっ……! “アタシの……」
唖然とする少女に詰め寄りながら仕込み杖を納刀し、振り下ろすように打撃を放つ。仰け反るように回避した少女の下顎に、更に打ち上げるように放った二打目が掠める。その攻撃による振動は少女の脳を揺さぶり、意識を奪うに至らしめた。
その場に膝をつき倒れる少女を前に、青葉が構えていた杖を下ろしたその時だった。
「っ……が、っは…………! ぁ、がぁぁあああああ!」
地面に両手をつき、少女が呻き声を上げる。
「なん……で、だ…………! お前みたいな、無能の雑魚、が……!」
「……まだ意識あったんだ」
少女は朦朧とする意識を気力で繋ぎ止め、己を見下ろす青葉を睨み返した。
「ッぅぁぁぁぁ……! 逆、じゃんかよ……ええ⁉ アタシの……身体も! 名前も! 異能も! 霊障も! アタシを作る全部! 『血』から受け継いできたんだ! アタシは……、何百年の『血』の歴史の……終着点だ! 跪くべきは…………っ、そっちだろうが!」
雨と一緒に、虹がかかった
流れ星が、空を駆けた
太陽は、眩しくて
些細なこと
何気ないこと
会いたい 話したい
伝えたい 教えたい
どうしようもなく
君が、好きだ。