私には夢がなかった
やりたいと思っても一時的で
どこかでそれを自覚もしてて
小学生の時は将来って言葉が
怖くてたまらなかった
今の時間がさも有限で
いつか大人に取り上げられる
脆く虚しい物に思えた
その言葉は中学で
進路って言葉に変わって
今度は選択を迫られた
少しずつ羽をもがれていく
存在もしない夢への一本道
ただ、その道は
漠然としたやりたいことが
具現化された場所でもあった
大学へと進み
自分と同じ何かを追う人と
出会い、共に歩む
漠然とした何かが
形を持って私の手に触れた
そんな気がした
私は夢がないんじゃない
否定されるのが怖かったんだ
将来って言葉で、才能の差で
自分のやりたいことが
できないってわかる
その瞬間から逃げてた
でも今、やりたいことを堂々と共有出来る人と、場所と出会えた。
もう逃げない、隠さない、誰にも否定させない
自分の生涯やりたいことを貫いて
未来へ続く今を生きるんだ
「別にいいだろ」
よく分かんない邪魔者が失せたんだし、何も問題はないとナツィは服のポケットに両手を突っ込む。
「…でも、あの子どう考えても“作られたばかり”でしょ」
あのまま1人で放っておくのは、ちょっと…とかすみは不安そうな顔をする。
「なんだよ」
アイツのことが心配なのか?とナツィはかすみに尋ねる。
かすみは…だってと返す。
「何も分からなかった頃の自分を見ているみたいで、なんか、さ…」
かすみの言葉にナツィはなんとも言えない顔をする。
暫しの間2人はその場で黙り込んでいたが、やがてナツィがこう呟いた。
「…行くぞ」
「え?」
既に金髪のコドモが歩き去った方へ向かおうとしているナツィに対し、かすみはポカンとした様子で返す。
「だから行くんだよ」
アイツを追いかけに、とナツィはかすみに背を向けたまま呟く。
かすみは思わず目をぱちくりさせたが、やがてうんと頷いた。
ナツィはその返事を聞くとスタスタと歩き出した。
「む……鬱陶……しい!」
白神さんの振るった爪を、覚妖怪は飛び退いて回避した。
「うぅー……!」
白神さんが苛立たし気に唸っている。彼女の手元をよく見てみると、奇妙な形で固定されていた。五指を大きく広げ、人差し指と薬指だけを根元から垂直に近い角度で折り曲げている。
「もー怒った!」
そう言って、白神さんは自分を素早く捕まえ、所謂『お姫様抱っこ』の形で抱きかかえた。
「痺り死ね!」
白神さんの足下から電光が迸り、地面を伝って周囲全方向に駆け抜けていく。なるほど、これなら覚妖怪でも回避しようが無い。
『「これで仕留められる」、そう思ったな?』
覚妖怪が口を開いた。その意味を量りかねていると、妖怪は猿のような肉体を活かして手近な木を物凄い速度で登り始めた。電撃は妖怪を追うが、多くの枝葉が避雷針のように機能することで、覚妖怪まで電撃が届かない。更に悪いことに、頭上を隙間なく覆う樹の中に妖怪が姿を隠してしまい、どこにいるのか分からなくなってしまった。
「し、白神さん。これじゃあ」
「大丈夫、もう1回……!」
白神さんが片脚を持ち上げたところで、頭上を強風が吹き抜けた。直後、少し離れた地面に覚妖怪が着地する。
『…………ふむ。“風”の思考を読んだのは、初めてだな』
「あれっ、そいつは驚いたな。どうせ何百年も生きてんだろーに、初めてか? “鎌鼬”と喧嘩すんのは」
自分と白神さんを庇うように立ち塞がったのは、種枚さんの弟子、鎌鼬少年だった。