一方ナツィたちから離れていったキヲンは、商業施設の1階をあてもなくさまよっていた。
「…ボクの“親”は寧依なの」
他の、誰でもないのにとキヲンは呟く。
「どうしてナツィはあんなこと…」
キヲンが足元を見ながらふらふら歩いていると、前を歩いていた人物にぶつかってしまった。
「あうっ」
ご、ごめ…とキヲンは咄嗟に謝ろうとしたが、相手の顔を見てあれっ?と驚いた。
「キミは…」
キヲンがぶつかった人物は、少し前に街中でぶつかったフードを被った人物だった。
相手はキヲンの姿を見て目を丸くした。
「お前…硫(リウ)か?」
「ふえっ?」
相手の言葉にキヲンは首を傾げる。
「ボクりうじゃないよ〜」
キヲンだよ〜とキヲンはじたばたする。
しかし相手はいーや!と語気を強める。
君が紡ぐやわらかなかわいいことば
すとんと私のこころを撃ち抜いて
宝箱にひとつ またひとつ
君が教えてくれた
大切なものが増えていくしあわせ
寂しくなった時は
引き出し開けてあの日の君に会いに行く
きっとこれからも私の暮らしの傍には
君のことば
「ねーぇー、どーこー? ヒトエぇー」
ヒトエを呼びながら、カミラはふよふよと吹雪の中を飛び回る。
「ヒトエぇー? ……ん」
不意に首筋に悪寒が走り、宙返りするように身を翻す。直後、カミラの首があった場所を、不可視の刃が通り抜けた。
「ヒトエぇ! ……いない? なんでぇ…………ヒトエぇー、ヒトエぇー」
カミラの背後で息を潜めながら、ヒトエは攻撃を回避されたことに驚愕していた。
(な、なんで……? 見えないはずじゃ……? と、取り敢えずもう1回!)
再び接近し、2本の剣で立て続けに斬りつける。しかし、それらもカミラは宙を泳ぐように回避する。
「やっぱりいる! ヒトエぇー、ヒトエぇー」
カミラは右手の爪を伸ばし、いつでも振れるように構えながら、ヒトエを探して雪の中を飛び回る。しかしヒトエはチヒロの力によって気配を消しているため、姿を認識されることは無い。
「ヒトエぇ……? いない……なんでぇ……?」
カミラの声が震え、弱々しくなっていく。
(どうしよ……何か、小さい子をいじめてるみたいな気分になる……でも、向こうも結構本気みたいだし……)
カミラの右手の先に揺れる長く鋭い爪を遠巻きに眺めながら、ヒトエは生唾を飲み込む。
「ヒトエぇ…………出てきてぇ……?」
カミラは少しずつ高度を落とし、そのまま雪上に落下して蹲った。
(………………心が痛むけど……やるなら、今!)
ヒトエが駆け出す。
「っ! ヒトエ!」
気配に気付いたカミラが振り返ると、姿を現わしたヒトエが双剣を振り下ろす姿があった。
才能を武器にしてきた人間は
才能を理由にして簡単に諦める
人数を後ろ盾にしてきた人間は
人数を理由にして簡単に掌を返す
好きだけで結んだ恋人は
嫌いを理由に簡単に別れる
人は変わっていく
時と共に、簡単に
変わらないものがあるとすれば
変わり続けて繋ぎ止めたもの
才能だけじゃない
想いだけじゃない
繋がるためじゃない何か
自分をそこに留める何か
それに縛られて
折っては建て直して
いつかきっと軸になる