「どう見てもお前は硫だ」
てかおれのこと覚えてないのか?と相手はキヲンの両肩に手を置く。
キヲンはだ、誰…?と困惑していた。
「おれは琅」
お前の、“家族”だと琅と名乗る人物は上着のフードを外しながら言い放つ。
キヲンはふえ…?と目をぱちくりさせる。
「かぞ、く…⁇」
「そうだよ」
同じ魔術師の手で生み出された、使い魔だと琅はキヲンの身体を揺すった。
キヲンは何がなんだか分からずポカンとしている。
琅は気にせず続けた。
「お前、去年おれたちが“学会”の奴らに追われている時に“学会“の奴らを引きつけるっておれたちの元を離れたっきり、行方不明だったんだ」
ずっと、心配してたんだぞ…と琅はキヲンの肩に置く手に力を入れる。
「他のみんなは諦めてたけど、おれだけは諦め切れなくてこの街へ来た時は絶対探し出すって決めてたんだ」
そしたら、こうして見つけられたと琅は続ける。
「ヒトエぇっ!」
ヒトエに向けて、カミラが爪を突き刺す。しかし、その姿は直撃と同時に掻き消える。
「ヒトエ……じゃない……?」
カミラの動きが硬直したその瞬間、姿を消していたヒトエが、背後から心臓を貫いた。
「あうっ……⁉」
カミラは刃から抜け出そうと藻掻くが、ヒトエはもう1本の剣を角度を付けてさらに突き刺す。
「にゃああああっ、ヒトエぇ、ヒトエぇ……!」
悲鳴のような声をあげるカミラは、その声色に反して喜色満面の表情で振り向こうとしていた。
不意に、周囲を覆っていた吹雪の結界が消滅する。
「チヒロちゃん!」
地面に座り込んでいたチヒロに、桜色の和装の魔法少女が駆け寄る。
(あっ知らない人)
ヒトエの意識が一瞬そちらに向かう。
「あっ新入りの子? チヒロちゃんのこと助けてくれてありがとうね?」
「えっあっはい。さっきは幻影での囮、ありがとうございます」
「どういたしましてー。私はエリカ。小金井エリカだよ」
「亀戸ヒトエですどうも」
「とにかく、そいつに早くとどめを!」
「は、はい!」
ヒトエがカミラに視線を戻す。
「あ、ヒトエぇ。やっとこっちむいたぁ」
カミラは身体を反らして、ヒトエの顔を覗き込んでいた。ヒトエは咄嗟に身じろぎしようとして、違和感に気付いた。彼女の手首と双剣に、何か細長いものが巻き付いており、離れなくなっているのだ。
「わたしのしっぽだよぉ?」
「な、なんで……?」
今すぐにやってくる未来とその先の未来は
培ってきたもので出来ていて
それも努力の証になっているはずの未来には
私の無駄じゃないはずの足跡が足音立てずにあるはずもなく
ぷかぷか浮いているはずもなく
明日が怖いと泣いたあの日には私の顔は見当たらなかった
ふと懐かしく思って聴き直したプレイリスト
君が聴いてたバンド、自分も必死になって聴いてるうちに
バンドも君も好きになっていった
すれ違いにすれ違ってお互いに心地の良い距離感を保っていた
ブーケトスを眺めてあの日泣いたことを思い出した
自分なりの幸せを辿って来たつもりだけど君はどう?
今、幸せなの?それだけが知りたくて。
今やもう三十路なわけで。聞く事も聞き方すら思いつかない
ただ距離を感じて互いの存在を消さないでいるだけ