「“マスター”が持ってるわたしたちきょうだいの魔力供給術式の内、硫のものだけ明らかに術式が動いてなかった」
もう硫は、この世界にいないのよ…と碧は顔を手で覆った。
それに対し琅は黙り込むが、すぐに…じゃあと返した。
「じゃあここにいるのは誰なんだよ」
琅は震えながら続ける。
「ここにいるのは、硫以外の誰ってことになるんだよ⁈」
突然声を上げた琅に、碧は驚いて顔を上げる。
「みんながなんて言おうが、おれにとっては硫は硫なんだ!」
例えおれたちのことを忘れていても、本質的にはアイツなんだ!と琅は叫ぶ。
「それに今は思い出せなくても、その内昔のことを思い出すかもしんねぇだろ!」
だから硫は硫なんだ!と琅はキヲンの腕を引いて歩き出す。
自分を押し除けるように歩き出していった琅に、碧はちょっと⁈と呼び止めようとする。
しかし琅はキヲンを引っ張ってそのまま倉庫街の奥に消えていった。
普段通り、笑わせることが
自分にできる救済の方法だなんて
ただの助けられない言い訳だ
君一人の特別になれない証明だ
「まぁ確かに魔力の気配も、容姿も同じだけど…」
本当に硫なのかしら?と碧はキヲンを見る。
「世の中には同じ顔をした人間が3人いるって言うし」
使い魔にも当てはまるじゃないかしら?と碧は続ける。
それに対し琅は疑うのかよと不満そうにした。
すると碧はだって…と俯く。
「わたしたちの“マスター”は、硫と接続していた術式が機能しなくなったから亡くなっただろうって」
「それはアイツがおれたちにあの件を忘れさせるために言ってるだけだろ⁈」
「あなたまだそんな風に思ってるの⁈」
琅の言葉に碧はそう言い返す。
「…わたし見たのよ」
碧は呟く。
もうあなたをひとりで戦わせたりしない。
そう言ってもあなたはひとりみんなを守る為に
身体を張る
ときには私を頼ってください
優しいあなたは暗闇を照らす光だから
人の役に立ちたい
君の役に立ちたい
ほんとはとてもそう思う
でも結局
なにも知らないようなふりをして
明るい姿だけ見せるようになる
だって君は私が泣いたことを知ったら
自分のせいで、ってまた自分を責めちゃうような
優しさを持った強い人だから
違うのにな
こんな能天気でいたいわけじゃないのにな
君に寄り添えたらどれだけいいだろうか
君が私を少しでも覚えていてくれたら
君が生きたいと思うひとつになれたら
君が自分を好きになれるきっかけになれたら
どれだけ、嬉しいだろうか
私は君の特別になれない
何が君の特別なのかもわかってるのに
私が君を救いたい気持ちがどうしてもきえない
2人が教室中央に意識を向けていると、空気中の微細な塵が渦を形成し、中央から突発的なエネルギーの奔流が溢れ出した。咄嗟に、エイリはヒトエの背中に隠れる。
「あぁー、いたー!」
渦の中央から、明るい声が投げかけられる。ヒトエが目を開くと、カミラがふよふよと浮いていた。
「こんにちはぁ、ヒトエぇ」
「こ、こんにちは、カミラ」
「そのひとだぁれ? おともだち?」
「えっと……先輩です」
「はぇ。まぁいいや。やるよ、ヒトエ」
カミラが爪を伸ばす。
「は、はいっ!」
双剣を構えたヒトエに向けて、カミラが突進する。それを迎え撃とうとヒトエが構えたその時、彼女の背後からウサギを模したマスコットのような生命体が5体飛び出し、カミラに飛び掛かった。
「にぃっ!?」
カミラはその生命体のうち2体を爪で引き裂き、1体を鷲掴みにしてそのまま吸収する。
「びっくりした……なにこれ? おともだちの?」
ヒトエの背中に隠れたまま、エイリがピースサインを示した。
「むぅ、一番弱い形態とはいえ、あっさり吸われるなぁ……。チヒロ先輩が言ってた通りだ」
残ったマスコットたちは弾むようにエイリのもとへ引き返してくる。
「後輩ちゃん。こんな狭い教室の中で大丈夫?」
「あっはい。どうにか」
「じゃ、こっちも折を見てサポートするから、頑張ってね」
「えっあっはい」
あなたのそのしっぽを誤って踏んでしまったことがある。
あなたの可愛い姿は癒しそのものだ(* ´ ` *)ᐝ