「それでは、本日の授業はここまで」
「みんな、宿題はちゃんとやっておくように」と言って、教室から教官が去っていく。それを見届けてから、教室内にいる色とりどりの服を着た少年たち…アヴェスたちは椅子に座ったまま近くの席の者と会話を始めたり、荷物を鞄にまとめて教室から去っていったりと、思い思いに動き始めた。
そんな中、教室の窓際の列の一番後ろの席で橙色の詰襟にバルーンパンツを履いたアヴェスは窓の外に広がる青空を見つめていた。
「……アーカ‼︎」
どんっ、と机を叩く音で橙色の詰襟のアヴェスはハッと我に返る。彼が思わず机を叩いてきた人物が立つ自身の左側を見ると、茶色と鳶色の千鳥格子模様のケープと白いパフスリーブシャツ、そして茶色いバルーンパンツとベレー帽を身につけたアヴェスが机に手をついていた。
「……」
橙色の詰襟のアヴェスは、相手に黙って冷たい目を向ける。しかし相手のベレー帽のアヴェスは、気にせずニコニコ笑っていた。
「どうしたの? ずぅっと外眺めちゃって」
「授業がつまんなかった?」とベレー帽のアヴェスはその場にしゃがみ、机に頬杖をつき始める。橙色の詰襟のアヴェスは「別に」とまた窓の外を見る。
「ただ物思いにふけってただけ」
「へぇ〜! 物思い‼︎」
ベレー帽のアヴェスはなぜかきらきらと目を輝かせる。
「ねぇ、要塞都市の外へ行きたいって思ったことある?」
近代的なレンガ造りの要塞都市中心街から離れた丘の頂上に座りつつ、橙色の詰襟ジャケットとバルーンパンツ、帽子に黒い和袖の外套を羽織った少年が、同じようなジャケットとバルーンパンツに帽子、そして白い和袖の外套を羽織った少年に尋ねる。白い外套の少年は「どうした?」と訊き返す。
黒い外套の少年は「え〜いいじゃーん」と遠くを見る。彼の視線の先にはこの要塞都市を守る高い壁が小さく見えていた。
「何気なく思ったんだしー」
黒い外套の少年はそう言って笑う。白い外套の少年は「ふぅん」と頷いた。
「コマは思ったことすぐに言えるよね」
「?」
白い外套の少年がそう呟くと、コマと呼ばれた黒い外套の少年は左側を見て首を傾げる。白い外套の少年は「いやだって」と続ける。
「コマは誰とでも話せるし、自分より話すのが上手いから」
「うらやましい、な」と白い外套の少年は膝を抱える。それを見て「もーしょげないでよアカ〜」と隣に座る白い外套の少年の肩を叩いた。
「アカにはアカなりのいいところがあるんだからさー」
「そんな顔しないの〜」とコマは笑う。アカは「そうかな……?」と照れくさそうにした。
そしてコマは思い出したように、アカに尋ねる。
「それでさ、アカは要塞都市の外に行きたい⁇」
その質問に、アカは少し考えてから答える。
アカの答えを聞いて、コマはアカらしいねと笑った。