「ちなみにボクはネロ、滋賀 禰蕗(しが ねろ)」
少女が目を光らせるのをやめつつ言うと、隣に座る少年が…で、と続ける。
「おれは生駒 耀平(いこま ようへい)、よろしく~」
耀平と名乗った少年は異能力を使うのをやめて小さく手を振った。
「まーアンタもボクらと同族なんだからさ、そんなに驚く事もないよ」
ネロはそう言いつつ笑うと、耀平はそうだなとうなずく。
自分は相変わらずポカンとしていたが、それに気付いたネロが…あれ?と首を傾げる。
「そんなにびっくりする?」
自分の様子を気にしたネロはそう尋ねた。
自分は、まぁうんと同意する。
「だって他の異能力者と関わる事がなくて…」
ちょっと、慣れないとこぼすと、ネロはそうなの?と聞き返す。
「この街は他の所よりも異能力者が多いんだけどなぁ」
そういう人もいるんだ、とネロは呟いた。
「…もしかして、人が苦手なのか?」
不意に耀平が聞いてきたので、自分はえっ、と固まってしまう。
それを見たネロは、ちょっと耀平~と左肘で彼をぐりぐりする。
生きたいと嘆いても
虚しく時間は刻刻と減っていく。
もっと、一緒に笑いたい
もっと、一緒に遊びたい
もっと、一緒に語り合いたい
もっと…
人形に退路を塞がせながら、蒼依は『冰華の腕』で殴りつける。鬼は身体を折り畳むように回避し、そのまま両腕を伸ばして長い爪で反撃を仕掛ける。
蒼依は倒れ込むように攻撃を回避しながら、『腕』を斜め上前方に向けて投擲する。倒れながら地面に手を付いて支え、足払いの回し蹴りを放つ。それと同時に、蒼依が投げ出した『腕』をキャッチした“奇混人形”が、それを鬼に向けて空中から叩きつける。鬼は伏せたような姿勢のまま横方向に身を投げ出し、両方の攻撃を回避した。
“奇混人形”は着地する直前、『腕』から手を放し、空中に投げ出された『腕』を更に蒼依が手に取った。蒼依はそれを“奇混人形”に向けて投擲し、回避行動を予測して“奇混人形”を突進させる。しかし鬼は回避行動を取らずに『腕』を受け止め、逆に奪い取ってしまった。目論見が外れたことで“奇混人形”は虚空に突撃し、そのまま前のめりに転倒する。
「ごめん腕盗られた」
鬼から目を離さず、蒼依が静かに言う。
「仕方ないよ。あとすっごいかっこ良かった」
「ありがと」
「早く倒して、腕も取り戻してね?」
「了解」
蒼依が答えたのとほぼ同時に、鬼が『冰華の腕』を振り上げながら飛び掛かった。『腕』は鬼の乱雑な扱いに合わせて滅茶苦茶に関節を揺らし、指先が木々の枝葉や下草を掠める。
その不規則な挙動を見極めようと観察していた蒼依の目の前に鬼が迫り、『腕』が直撃する寸前。
鬼が慣性そのままに倒れ込み、その手から『冰華の腕』が零れ落ちた。
(何だ……? いきなり倒れて……)
蒼依は警戒しながらも素早く『腕』を拾い上げ、冰華に投げ渡した。その掌が自然に動き、冰華の肉体に掴みかかると、腕は元の位置に再び収まった。
「冰華ちゃん? 何したの?」
「えっなんで私?」
「冰華ちゃんの腕振り回してこうなったんだから、冰華ちゃんのせいなんじゃないの?」
「まぁそうなんだけどね」