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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 23.オウリュウ ⑯

「え、耀平、霞さんにヴァンピレスの事話してもいいの⁈」
彼は一般人なんじゃ…とわたしは耀平に近付くが、耀平は、は?と振り向いた。
「霞は…」
耀平がそう答えかけた時、見つけたわよ‼と聞き覚えのある声が飛んでくる。
わたし達が声のした方を振り向くと、10メートル程後方にヴァンピレスが立っていた。
それを見て耀平はなっ!と驚く。
ヴァンピレスはうふふふふと高笑いをした。
「ネクロマンサーはわらわの分身で足止めさせてもらったわ」
これで貴方達を…とヴァンピレスはこちらへ歩いていくが、不意に辺りがもやに包まれる。
「⁈」
突然の出来事に、わたしは困惑した。
「何、これ…」
わたしは辺りを見回すが、白いもやが立ち込めているため耀平たちやヴァンピレスの姿がよく見えない。
それはヴァンピレスも同じようで、彼女は何ですのこれ⁈と慌てた声を上げていた。

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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 23.オウリュウ ⑮

ヴァンピレスに遭遇してから暫く。
ネクロマンサー以外のわたし達5人は、寿々谷駅の方へ向かって走っていた。
とにかく人通りの多い場所に出られれば、ヴァンピレスは攻撃してこないだろうという事で、人の多い大通りをわたし達は目指しているのだ。
「…アイツ、なんで急に襲ってきたんだ?」
細い道の交差する所で立ち止まりつつ、耀平がポツリと呟く。
「え、それは、わたし達をたまたま見かけて…」
わたしがそう言いかけると、耀平はまぁそうなんだろうけどと振り向いた。
「最近そういうの多いから気になるんだよなぁ」
耀平が呟くと、確かになと師郎はうなずく。
「たまたまかもしれんが、アイツは妙に俺達を襲いまくってるよな」
暇なのかねぇ…と師郎が後頭部に両手を回した所で、ねぇ、と霞さんが声を上げた。
「さっきのあの子って…」
霞さんがそう尋ねると、耀平があぁアイツ?と返す。
「アイツはヴァンピレス」
この街で他の異能力者の異能力を奪って回ってるやべー奴だ、と耀平は歩き出した。
それを聞いてわたしは驚く。

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侍に勝った海の向こうの勇者たち〜感動をありがとう〜

舞台は2013年3月,東京。
この街の球場で,WBCという野球の国際大会が開催されていた。
日本代表に接戦で敗れ,敗者復活戦のキューバ代表にも大差で負けて準々決勝に出られず悔し涙を流して終わった強豪国があった。
その国の名は台湾,戦前に日本の影響下にあった頃に持ち込まれた野球という競技が今も大衆娯楽として浸透している島国だ。
あの悔しい負けから11年が経った2024年,まずはこの島の中心都市・台北でドラマが生まれた。
日本のプロ野球で最も歴史の長いチーム,東京の巨人と現地のプロチーム2球団が親善試合を組んだ。
結果は,巨人の1勝1分。
それまでは日本選手相手だとなかなか勝てなかった中0-0で引き分けるほど守備と投手が張り切って、実力を発揮して見せた。
これが台湾野球の世代交代が成功した瞬間だった。
そして,迎えたその年のシーズンオフ。
世界ランクのトップ12カ国の代表だけが参加できる国際大会,プレミア12の試合が台北で開催された。
そこで圧倒的な成績を残した台湾。
一方,その大会のもうひとつの会場であり,決勝の会場でもあるスタジアムに新監督の指導のもと急成長を遂げたチームの姿があった。
そのチームとは,他でもない侍JAPANこと日本。ベスト4の総当たり戦の結果で1位と2位の代表が決勝でも対戦するというルールにより,「因縁の対決」が決定的になった。
そう,日本と台湾の試合だった。
総当たり戦では日本に軍配が上がった。
そんな中,決勝では日本代表の戸郷選手がホームランを打たれて失点。
そして,台湾の鉄壁の守備に阻まれて一点も取れずに日本は敗れた。
この瞬間,悲願の初優勝という波が感動の涙となって台湾全土を覆った。
そして,1人の日本人野球ファンの青年も、かつて少年時代に初めて父親に連れられて見た野球の試合が奇しくも台湾代表がキューバ代表に大敗したあの国際試合だった為当時と重ねて成長した台湾の優勝を心から祝う歓喜の涙を流したのだ。

あの感動を,俺は忘れない。
多謝,台湾!
立派に成長してくれてありがとう!