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たぶん悪夢

「起きたばっかりなのに何か疲れた……」

                  「寝汗ひどいよ。シャワー浴びてきたら?」

「うん行ってくる……」

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視える世界を超えて エピソード8:雷獣 その①

自分には友人が少ない自覚がある。それでも、最近入ったサークルの縁で出会った同学年の白神さんとは、サークル以外でも昼休みには一緒に昼食をとったりする程度には親しい仲だ。
今日も2時限目の後、講義室を出たところでタイミングよく出くわして、食堂に向かうところだった。
「千葉さんや、最近調子はどうですかい」
歩きながら、白神さんが尋ねてくる。
「まあ、ボチボチやってますよ。けど今日も締め切りが明日までの課題が出て、キツいことキツいこと」
こちらも軽い口調で答える。
「ところで千葉さんや。午後の講義の予定は?」
「3限は無いですけど、4限と5限が入ってまして」
「うわぁ、そいつはまた、面倒な入り方してるな……。3限には何も取らなかったので?」
「取らなかったですねぇ……」
話しながら歩いているうちに、食堂に到着した。
「きょーうのメイさんはー、オウドンを食べるー」
「したら自分もそうしましょーっと」
『メイ』とは、白神さんの下の名前だ。漢字でどう書くかは知らないけれど、そういう名前だってことは聞いている。そんなことを言い合いながら、空いた席に鞄を置き、料理の受取口に向かった。

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きっと楽しい夢

「起きた時あんなにホカホカだったんだから、よっぽどわくわくする夢を見てたに違いない!」

                          「……やーい子ども体温」

「うっさい!」

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深夜の迷子 黄昏

子供はゆずの手を握ったまま静止し…そして振り返る。黒い短髪がふわっと揺れた。
「…君さ、もしかして生きてる?」
「え」
子供は困った顔をして視線を彷徨わせた。
「そういえば既に逢魔ヶ時過ぎてるのか…」
その一言になぜか背筋がぞわりとした。冷えた風がゆずの足に絡みつく。
「センドウ様って知ってる?」
「センドウ様?」
「先に導くって書いて、先導。この地域独特の…神?みたいな?」
「ふぅん…」
「最近まで忘れていたんだけど…私はどうやら先導様として崇められていたらしい」
「…んっ?」
話の雲行きが怪しい気がする。ゆずは戸惑うが、子供はそれを見透かしたように、信じてくれと懇願した。
「私は、名前がある者なら、いるべき場所に帰すことができるんだ」
「いるべき場所?」
「ほとんどの迷子は自分の家だな。家じゃない子とも会ったことあるけど」
「へぇ…よくわかんないけど…すごいんだね」
ゆずの言葉に、子供は苦笑いした。
「そんなにすごくはないけど。でも私を信じてくれるなら、名前を教えて」

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唯一の活路

「みんなで力を合わせてハッピーエンド」なんてのは、別に架空の物語でも絵空事でも、綺麗事でも何でもない。
無知で馬鹿で脆弱で愚かな人間って生き物が少しでもマシな道を掴むためのただ一つのやり方なんだ。

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少年少女色彩都市・某Edit.のかなり後の方に出てくるキャラクター

“金細工師”厚木薫(アツギ・カオル)
年齢:24歳  性別:女性  身長:170㎝
芸術:彫金(打ち出し)  衣装:西洋風の軽鎧
『死に損ない』を自称するリプリゼントルの女性。現役リプリゼントルでは2番目に古参。過去の戦いで左腕は肩の付け根から失われており、左の脇腹には深い切り傷の痕が残っている。また、常に前髪で隠れていることから右眼も無いのではないかという疑惑がある。まあ目玉はちゃんと2つ揃ってるんだが。
性格は自称から察せる通り厭世的で投げやり。自分を卑下し役立たずであることに託けて全く以て戦おうとしない非協力的な人。
片腕が完全に失われていることから自分の芸術を実行することはほぼ不可能になっているものの、何故かリプリゼントルとしての力は失われておらず、現在はフォールムに就職して休憩室の一つを私室化して引きこもっている。戦法としては描き出した刀剣によるインファイトがメイン。剣の種類によってちょっと特殊な性能を発揮する。
唯一『先輩』と呼ぶべき現役最古参のリプリゼントルからは「オルちゃん」の愛称で呼ばれている。由来? そら”金細工師”よ。

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きっと素敵な夢

「起きた時あんなに身体がぽかぽかしてたんだから、良い夢を見てたに違いない!」

                           「……最近暑いもんね」

「ふいんき!」

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視える世界を超えて エピソード8:雷獣 その②

白神さんと二人して天ぷらうどんを購入し、セルフサービスの水を取ってから、席に戻った。
それから、殆ど手を止める事無くうどんを完食し、残った水を飲みながら一息ついた。
この後しばらく時間に余裕があることもあって、気が抜けて深く息を吐きながら、仰け反るようにして背もたれに身体を預ける。と、真後ろの席に座っていた人に後頭部がぶつかってしまった。
「あ、すみません……」
咄嗟に謝罪しながら振り返り、そこにいた人の姿を見て、身体が硬直した。
「ん、いやこっちこそ」
気に留めていない様子で答えたのは。種枚さんだった。この人、ここの学生だったのか。
「およ、千葉さんや。知り合いかね?」
こちらを覗き込んだ白神さんと種枚さんの目が合ったのだろう、種枚さんの目が僅かに見開かれる。
「種枚さん?」
「…………君、友達いたんだ?」
「失礼な……自分を何だと思ってるんですか。彼女は友人の白神さんです」
「……そうかい」
種枚さんはつまらなさそうに答え、そっぽを向いてしまった。
「千葉さんのお友達? 初めまして白神メイですー」
白神さんの自己紹介にも、種枚さんは反応を示さない。
「ありゃ…………あ、ごめんね千葉さんや。わたしは3限あるから、そろそろ行きますよ。お友達とごゆっくりぃ」
まだ3時限目の開始時刻までは少し余裕があるけれど、やはり居心地が悪くなったのか、白神さんはそそくさと席を立ち、その場を立ち去ってしまった。

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視える世界を超えて エピソード8:雷獣 その③

4時限目の後、白神は帰宅のために大学の正門をくぐった。そのまま歩道に沿って1歩歩き出し、すぐに足を止める。
「……およ、さっきの……千葉さんのお友達」
「よォ。シラカミメイ、だったか?」
「はいメイさんですよ。ちゃんと聞いてたんだ?」
「私は人の話は聞くタチでね」
「で、千葉さんのお友達さん?」
「種枚。呼び名は短い方が良いだろ」
「了解クサビラさん。わざわざ出待ちまでして、メイさんに何の御用で?」
「この場で話すとなると人目が気になるからなァ……良い場所を知ってるんだ。ついて来な」
そう言って白神に背中を向けて歩き出した種枚に、一瞬の逡巡の後、白神も続いた。

「……そういやメイさんよ」
道中、振り返ることも無く種枚が背後の白神に話しかける。
「何ですかいクサビラさん」
「あの子……チバとはどれくらいの付き合いだい?」
「それは長さで? 深さで?」
「とりあえず長さで」
「そんなに長くないよー。後期が始まってすぐくらいの頃に、わたしのいたサークルに入ってきた縁でね。だからまだ……2、3か月?」
「へえ、私とそこまで長さは変わらないわけだ。深さは?」
「週3でお昼をご一緒するくらいの仲だけどクサビラさんは?」
「私はあの子の命の恩人だけど?」
「…………」
「…………」
2人の間に、重い沈黙が流れる。そのまま数分、無言で歩き続け、不意に種枚が立ち止まった。
「……なーんだ、良い場所なんて言うからどこかと思ったら、ただの公園じゃないですか」
「夕方にもなればすっかりひと気が失せるからねェ。さ、行こうか」
ようやく白神に一瞥をくれた種枚が敷地内に踏み入り、白神もその後に続いた。

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少年少女色彩都市・某Edit. Outlaw Gils Duet その②

2人が現場であるショッピングモールに駆け付けると、外壁には大きな穴が開いておりエベルソルのものであろう巨大な尾がはみ出してのたうっていた。
「……随分デカいのが突き刺さってるな。あの辺りって何屋があったっけ?」
「さぁ……私あんまりここには来ないので……」
「ここって中高生の休日のたまり場の鉄板じゃないの? 私もあんまり来ないけど」
「えぇ……」
「取り敢えずリウ、先行して」
「りょ、了解です」
理宇を前に置き、2人はショッピングモールに入った。逃げ惑う一般人に逆らいながら、2人は外壁の大穴のあった辺り、2階のある地点にやって来た。
「……あー、ゲームコーナーか」
ロキは呟き、クレーンゲームの筐体を倒して暴れ回る巨大なエベルソルにインキ弾をぶつけた。
ナメクジとナマズとヘビを混ぜたような姿のそのエベルソルはのたうち回るのを止め、頭部を2人の方へぐりん、と回した。
「ん、こっち向いた。リウ、頑張れ」
「了解です! ……いやしかしでっかいな……」
インキ製のスティックを両手に、理宇はエベルソルに向けて駆け出した。