「でも、アイツはこう呟いたの…“天使”って」
「えっ」
その言葉にキヲンは驚き、ナツィとかすみは身じろぎした。
ピスケスは顔を上げて、そんなに驚くことでもないわと苦笑する。
「そのときの私は背中の翼を生やしていたから、なにも知らないアイツには天使に見えたのよ」
だけど、とピスケスはまた手元に目を落とした。
「私はふと思い出してしまった」
ずっと昔、私が歳乃の家…鴻海一族に引き取られたばかりのころに、私のことを“天使”と呼んだ人間がいたことを、とピスケスは目を細める。
「その当時の鴻海家の当主だった私のマスターの娘…病弱で、魔術の才もなくて、一族の中では疎まれていたけれど、遠い海の向こうからやってきた“空飛ぶ人工精霊”の私に興味を持って、よく“遊び相手”になってほしいとせがんだ彼女」
あの子も私のことを“天使”と呼んで、懐いていたのよとピスケスは続けた。
「その子は病気で早々に亡くなってしまったし、私は何十年も彼女のことを忘れていた」
でも、アイツの言葉で思い出してしまってとピスケスはティーカップをテーブルの上の小皿に置く。