「お前、なんでピスケスのところに連絡したんだよ」
「は? なんでって」
「いや、お前はお前で別に家があるらしいじゃん」
ナツィがそう言うと、露夏はつい足を止める。
そのことに気づいて、ナツィとかすみも立ち止まって振り向いた。
「…お前、なんで自分の家に連絡しないんだ」
ナツィが尋ねると、露夏は…いや、さぁと目を逸らす。
「おれはピスケスの“狗”なんだし」
「なんだよソレ」
「いやいや、おれはそういうものなんだって」
「イマイチ答えになってないんだけど」
ナツィと露夏はそう言い合うが、やがて露夏は仕方ねぇだろと呟いた。
「アイツと長く連んでいるうちに、腐れ縁みたいになっちまった」
だからアイツを頼らざるを得ない、と露夏は上着のポケットに両手を突っ込む。
ナツィとかすみは静かにその様子を見ていたが、露夏はなんだよとこぼした。
「おれとピスケスは付き合いが長くなってきて腐れ縁になってきてるだけなんだし」
別にお前らみたいな関係じゃないから、安心しろと露夏はキャップ帽のつばを上げてみせる。
「…でもまぁ、アイツもおれのこと、多少は気にかけてくれるしなぁ」
まぁ“狗”なんてそんなものだろうな、うんと露夏は一人頷いた。
ナツィとかすみは相変わらずそんな露夏の様子をなんとも言えない面持ちで見ていたが、やがて露夏がほら、と手を叩いた。
「帰るんだろ、お前ら」
お前らだって見た目から言えばその辺の人間にコドモ扱いされちゃうんだし、と露夏はナツィとかすみを追い抜かしつつ呟く。
ナツィとかすみは顔を見合わせると、また夜道を歩き出した。
〈狗蝶造物夜迎 おわり〉
深夜、ひと気のない大きな駅の前にて。
ターミナル駅とはいえ終電も出てがらんとした駅の近くにある交番で、2人の警察官とイスに座ったキャップ帽を目深に被っているコドモが言い合いをしていた。
「だーかーら! おれはお巡りさんに保護される筋合いはないんだし‼︎」
「そんなこと言ったって君、まだ中学生くらいじゃないか」
こんな夜中にほっつき歩いていたら危ないよ、と見るからに中年の警官はコドモに注意する。
しかしコドモは、おれそんなに弱くねーし!と悪態をつく。
「第一、おれはおじさんたちの思うような“コドモ”じゃないんだし、そろそろ解放してくれよ!」
「いーや、保護者の方が迎えに来るまでここで待つんだ」
「頭かてーなお巡りさんは」
「そういう口は利かない方がいいぞ君」
コドモと警官がそう言い合う中、そのやり取りを見ていた若い警官が不意に背後でなにかの割れるような音を聞いた。
「?」
若い警官が何気なく振り向くと辺りは妙な匂いのする白っぽい煙に包まれ、2人の警官はなす術なく気を失う。
コドモは突然の出来事に驚きつつ赤い上着の袖口で口元を押さえるが、やがて晴れた煙の向こう…交番の入り口に見覚えのある2人組の姿を見とめた。