シューアイス『牧田の場合』
「ざまあみろ、だ。」牧田は薄暗い校舎裏、雑草の茂る中でそっと呟く。手の中の小さな液晶画面に、杉田が加藤の顔面を思い切り叩きのめす様子がぼうっと写し出されている。じめじめとした空気を吐いては吸い、牧田はコマ送りのように流れる映像を表情もなく眺めていた。汗がどこからとなく湧き出てきて、湿った制服を夕方の生暖かい風が撫でる。牧田は神崎のことを思う。腰の辺りまで伸びた黒髪を思い描く。その髪が短かった頃、牧田は確かに神崎のことが好きだった。顔を真っ赤にして手を繋ぎ、一緒に下校したり、したこともあった。喉がカラカラに乾いて仕方なかった。牧田はポケットからシューアイスを取り出し、一口食べる。少し溶けたバニラアイスが牧田の喉を潤してくれる。冷たかったシューアイスが溶ける様に、牧田の恋は無くなっていった。短くて、幸せな時間だった。雨の多い6月が終わる頃、珍しく晴れて気持ちの良い昼下がりに、神崎は牧田と別れた。2ヶ月前から加藤と付き合い始めたらしい。怖くて中々別れ話が出来なかったんだって、ふざけんな、クソ○ッチ。杉田が繰り出す拳の一発一発が、あまりにも生々しく、まるで本当に自分の手が痛むようだった。やれ、やっちまえ。叩きのめせ。牧田は左手をぎゅっと握り締め、誰にともなく祈った。