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ふくろう

なぜあなたは創作するのですか?
前頭葉を活性化させるためだ。前頭葉を活性化させないと思考が後ろ向きになり、作動記憶が衰える。それに怒りっぽくなるしな……典型的な年寄りになってしまう。前頭葉を活性化させるには創作がいちばんだ。年寄りくさくなるのは嫌だからな。
あなたにとって創作とはなんですか?
それはいま説明しただろう。
ちょっとさっきの質問とは違うのですが。
同じような質問をするんじゃない。
すみません怒りました?
怒ってはいない。
いやあ、ちょっと怒ったでしょ?
怒ってないよ……年寄りだと思って馬鹿にしおって……長生きしてもいいことはないな……
あれ? なんか思考が後ろ向きになってません?
なってない。
頑固だなあ。そういうのスゲー年寄りくさいっすよ。
帰れ!
へへへ。
へへへって……すまんなつい怒鳴ってしまった。年はとりたくないもんだ。
年齢関係なしにしつこくされたらみんな怒りますよね。でもあなたは自己コントロール欲求が強いから怒りをあらわにするのは恥だと思っている。
よくわかるな。
そりゃそうでしょう。わたしはあなたの創作物ですから。あなたの一部です。
一部だが、君はわたしではない。
ほー。
感心するほどのことじゃない。
ふくろうの真似です。
……帰れ。
なんか最近楽しくないなー。
前頭葉を活性化させてないから、そのような発言が出る。
それは自分自身に言ってるんですか?
まあそうだ。
前頭葉教でも始めたらどうですか?
そういうのは得意じゃないんだ……そろそろ飯にしよう。……わたしは孤独だ……孤独な人間が狂気に陥らないために創作はある。わたしがものを書くのは、わたしが孤独な人間だからだ。
はあ……ワインもう少し、いただいてよろしいですか?
勝手に注いで飲んでくれ。美味いだろう。産地は知らんが年代ものだ。
ほー。
またふくろうの真似か。
いえ、本当にふくろうになってしまいました。

3

「いらっしゃいませ」
「とりあえず生ビールね……あと、やっこある?」
「すみません。ありません」
「じゃあ枝豆」
「すみません。きらしてます」
「なにかできるのは?」
「すみません。なんか適当に買ってきますんで、お客さん、店番しといてください」
「嫌だよ……仕事帰りで疲れてるのに」
「ですよねぇ。あ、ピーナッツならあります」
「乾きものかあ。まあいいか。……その水槽の魚はなんだい?」
「お出ししますか?」
「川魚みたいだね」
「さあ〜、なに魚なんだか。つぶれた店から水槽ごともらったんで」
「そんなわけのわからない魚食べるわけないだろう」
「名前はアイっていうんですよ。わたしがつけたんです」
「ペットを客に出そうとするんじゃないよ」
「へへへ」
「へへへって……ところでどうしてアイなんて名前にしたんだい?」
「コイって魚はいますよね」
「うん」
「でもアイって魚はいないじゃないですか」
「うん」
「だからです」
「うん、さっぱりわからない」
「愛ってなんなんでしょうね」
「生存本能由来の感情だろうな」
「愛って必要なんでしょうか?」
「過剰な愛は排他性を高めるからマイナスだな」
「なにごともほどほどが肝心ってことですかね」
「そうだな。……生ビールおかわり」
「お客さん、なにごともほどほどが肝心ですよ」
「俺の身体に気なんかつかわなくていいんだよ。どれだけ商売っ気ないんだ君は」
「すみません。生ビールそれで終わりです」
「じゃあ瓶ビールでいいよ」
「かしこまりました。すぐ買ってきますんで、店番しといてください」
「会計してくれ」

2

アイ

「いらっしゃいませ」
「こんばんは〜。あ〜、リョウイチさんこんばんは〜。
あ、ありがとう。わざわざ持ってきてくれたんだ。
え?……最近会ってないからわかんない。
はあっ⁉︎
雑誌買わな〜い。流行りは友だちが教えてくれるもん。
そうそうそうこのひとさあ、弁護士なのお。
お客さんなんだけど。
なんかさあ。はまっちゃいそうなんだよね。
リョウイチさん、この曲ってどんな曲?
この歌詞に出てくる娘がわたしに似てるんだって。
あ、マジで。
そっかあ〜。
そうなんだ〜。
マジかあ。
ヤバい。
ねえところでなにこの水槽?」
「果たしてあなたに真の友がいるのでしょうか?」
「はあっ⁉︎」
「あなたは他者をほんとに愛せるひとですか? 一見他者を愛してるようですが、あなたが愛しているのは自分自身だけじゃないのでしょうか?」
「はあっ⁉︎ なんなのこの魚?」
「申し訳ありません。すぐしまいます」
「わたしはアイです。いまわたしが言ったことを頭のどこかに、心のどこかに置いといてください。他者への愛のないひとに愛とはなんであるか、また、他者を愛する喜び、憎しみを愛に変える理論を伝えるのがわたしの仕事です。どうか……」
「オメーの仕事なんて、いまの日本にはねーんだよ‼︎」

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