近くて遠い背中に爪を立てる
「今年も織姫ちゃんは素敵だった」
開口一番にそんなことを抜かしながら、目元も口元も緩みきった彼が帰ってきた。浮かれる彼の声に叩き起こされた哀れな私は、「そう」とだけ返して煙草をくわえる。ポケットの中からライターをつまみ出そうとしたところで、ようやく自分が素っ裸であることを思い出した。
「俺が帰ってくるまで、ずっとそんな格好でいたわけ」
「天の川に橋がかかるまで、もうしばらくあるから」と、昨日の夕方になるだろうか、私をこんな格好にした張本人は笑う。大河を挟んで遠距離恋愛中の恋人との、年に一度の逢瀬―――そのギリギリまで他の女を抱くような男のそれとは思えないほど、無邪気な笑顔だった。
「別に良いでしょう、放っておいて」
「別に良いけど、放ってはおけない」
私の唇から煙草を引っこ抜き、代わりに己の舌をぬるりと差し込んでくる彼に答えながら、ぼんやり思う。こいつの大好きな織姫ちゃんとやらも、どこの誰とも知れないような男と、私達と同じようなことをしているんだろうなあ。たった1日の純愛と、残り364日の不純愛。
彼の大きな掌が、私の体を再びシーツの海に沈める。昨日よりも少しだけ優しい手つきだった。三日月型の彼の瞳に見下ろされながら、その白い波に初めて身を委ねたのは、もういつのことになるだろう、そんなことすら思い出せないほど、熱に浮かされて、意識はあぶくに、ああ、もう、なんだかなあ。
「織姫ちゃんって、有名人に例えると誰に似てるの」
「綾波かアスカかで言うならアスカだわな」
超可愛いじゃん。なんだかなあ。